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セイドレイ【完結】
第15章 見えない敵

「高崎」姓を名乗る亜美と「武田クリニック」の関係。
トメという老婆の存在、預けられたスマホ、放課後の "奉仕活動" 。
そしてそれらを「誰にも言わないで」と口止めされたこと。
亜美の背景を知らない貴之からすれば、やや不可解に感じられることぱかりである。
一方で、そんな謎めいたミステリアスさがかえって魅力的にも映っていた。
「(──ま、いっか。とりあえずもっとなかよくなって、これから少しずついろんなこと聞けばいいし…)」
相手を "知りたい" と思うこと。
それはもっとも分かりやすい "好意" のあらわれである。
「(それに…あの笑った顔。あんなふうに笑えるのに、どうして学校では誰とも話さないんだろう。てか高崎さん、彼氏居たりすんのかな…)」
貴之は、亜美が帰り際に見せたあの笑顔が目に焼きついて離れなかった。
その笑顔の裏に、どれだけの絶望とかなしみが潜んでいるのかも知らずに──。
一方、亜美の足どりはいつも以上に重かった。
今日1日のうちに起きたことを、朝から振り返ってみる。
まず気がかりなのは、本山の動向だった。
このあたりに変質者が出没するなど、聞いたことがない。
あれは嘘だ──だとしたらなぜ、下校中の亜美の前に現れたのか。
あのとき、本山にスマホの隠し場所がトメの家であることを正直に伝えたのは、亜美なりの駆け引きである。
おそらく本山はスマホの隠し場所を気にしてあとをつけてきたに違いないからだ。
だが、なにを思って "奉仕活動" などと匂わせるようなことを言い、貴之を巻き込もうとしているのか。
そして、その水野貴之。
彼の登場によって、亜美のペースは完全に狂った。
なにかと間が悪いだけでなく、積極的に亜美に関わろうとしてくるうえ、おまけに家まで近い。
これからは唯一自由な時間であった登下校でさえ気が抜けなくなってしまう。
(でも…あの笑顔を見たときに感じた気持ちは、なに──?)
そんなことを考えているうちに、あっという間に家の前に着いた。
(今日はなんだか…いろいろありすぎて疲れた──)
しかし、亜美の1日はまだ終わらない。
むしろここからが本番なのだ。
そして──。
今日これらの一部始終を、見えない場所から覗いていた "もうひとり" の視線があったことを──このときはまだ誰も知らなかった。

