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セイドレイ【完結】
第16章 初恋
亜美は、自分でもどういうつもりでそんなことを口走っているのか分からなかった。
先週はあれだけ貴之のことを疎ましいと思ったていたのに、たった今自らの口で一緒に下校することをほのめかしたのだ。
しかも、新堂に見張られているかもしれないという、こんな状況で──。
「──じゃあ、今日も一緒に…帰っていいすか?」
「う、うん…。あ、でもトメさん家には寄りたくて…。もし面倒なら、先に帰っても…」
「い、いやいや!ぜんぜん!どこでもついていきます…!」
「なにそれ…アハハッ」
亜美の顔が自然とほころぶ。
「(か、かわええ……やべー……)」
「──あ!もうこんな時間だ!授業始まっちゃう…!」
「え、あ!?本当だ!やばい!」
ふたりは慌てて教室へと戻った。
午後の授業中も、亜美は貴之のことを、そして貴之は亜美のことを考えていた。
亜美はふと──先日、健一に言われたことを思い出す。
(人を好きになるって…もしかして、これが──?)
それと同時に、先ほどの本山の言葉もよぎってしまう。
(水野くんも…やっぱり私を "そういう目" で見てるだけ?)
もし仮に、貴之が亜美に対して純粋な好意を寄せてくれていたとしても──その本当の姿を知ったら、軽蔑するに決まっている。
もしくは、あの男たちと同じように、陵辱者へと変貌を遂げるかもしれない。
では、自分はどうなのだろう──と亜美は考える。
(やっぱり…今の私なんかが人を好きになっていいはずがない。私にはもう、無理なんだ──)
亜美は、一瞬でもときめいてしまった自分が嫌になる。
毎日のように男たちに犯され、孕まされもした。
しかもそれは現在進行形であり、今後はよりひどくなっていくであろう。
そんな状況の中で「誰かを好きになる」など、到底不可能ではないか。
『 "希望" を捨てるな──』
新堂のその言葉の意味を、亜美はようやく理解する。
亜美が希望を抱けば抱くほど、それを奪い、破壊することが陵辱者たちにとって最高のエクスタシーになり得るのだ。
あっさり服従する女や、簡単に崩壊してしまう女に、彼らは興味がないのだろう。
"亜美の人生そのもの" が商品価値であると新堂は言った。
それはつまり、その人生が希望から絶望へと転換する際、もっとも値打ちが高まるということなのではないか、と──。