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セイドレイ【完結】
第17章 自由

武田クリニックに隣接する亜美の家は、門の外からではその全貌が分からないほどの大きさだった。

「でけぇ…てかこれ、家っていうかもはや城じゃん…」

貴之は封筒を片手に、おそるおそる呼び鈴を鳴らす──。

「──はい?どちらさまでしょうか?」

インターホンのスピーカーから女性の声で応答がある。

「あっ、あの…僕、水野と言います。亜美さんと同じクラスなんですけど、先生に頼まれて書類を持ってきたんですが──」

「あーはいはい!聞いてますよ。あ、私はここの家政婦をしている内藤です。わざわざありがとうね。そこまで取りに行くから、ちょっと待っててもらってもいいかしら?」

「は、はいっ…!」

貴之は門の前でやや緊張しながら、内藤がやってくるのを待つ。
ほどなくして、玄関から小柄な中年女性が駆け寄ってくる。

「──どうもどうも!わざわざご丁寧に…ありがとうね!」

「い、いえ…。それより、亜美さんの調子は…どうなんですか?3日も休むなんて…なにかあったんじゃないかって心配で…」

「それがねぇ。実は私も3日前から亜美ちゃんの姿を見てないのよ…。どうやら貧血がひどくて、うちの病棟の個室で休ませてるって院長は言うんだけど。私も心配なのよ~」

「そ、そうなんですかっ?」

「ええ。あの子…すっごく少食だし、ちゃんと食べなきゃダメよ~っていつも言ってるんだけど。とくに最近は食事の量が減ってたから…。でもよっぽど来週には学校に行けると思うわ。じゃあ…封筒、たしかに預かりました。ありがとね~」

「あ、はい…。こちらこそ──」

貴之が屋敷へと戻る内藤のうしろ姿を眺めていると、1階の窓からこちらを覗く男の姿に気づいた。

「(ま…まさかあれが?亜美が言ってたこの家の次男、って…)」

それはこの家の次男、慎二──。
ボサボサの髪に、清潔感とは無縁の風貌。
遠目で見ても相当な肥満体型であることがうかがえる。
遠縁とはいえ、亜美の親族だということで整った容姿を勝手に想像していたが──それはあまりにイメージとかけ離れていた。

慎二は死んだような目で貴之のことを睨みつけると、すぐにカーテンを閉めた。

「(あんなんが家に居るのかよ…。俺でも嫌かも…)」

貴之はふと、武田クリニックの病棟を見上げる。
そこに亜美がいると思うと、その顔を拝みたくなる衝動をぐっとこらえ、その場を去った。
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