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セイドレイ【完結】
第3章 はじめての朝
そのころの亜美は、まさかもうまもなく自分の人生を変えてしまう運命の日がすぐそばまで来ていることなど、まったく予期できなかったであろう。
高校生活がスタートしたばかりの、4月のとある日──。
その日は、亜美の最愛の両親である、信哉(のぶや)と奈美(なみ)の結婚記念日だった。
「せっかくだし、たまにはふたりで出かけておいでよ!」
亜美は両親にそう言って、この記念すべき日に夫婦水入らずでのディナーを提案したのだった。
「でも…。夜、亜美ひとりを家に残していくのは心配だし…」
そう躊躇する母を、なかば強引に説得する亜美。
「私だってもう高校生だよ?留守番くらい一人でできるよ~。パパも忙しくてなかなかお出かけできないから、今夜はふたりで行っておいで!私は大丈夫だから…ね??」
「そ、そう…?じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかしら」
そう遠慮がちに微笑んだ母の顔が、今も亜美の脳裏に焼きついて離れない。
「それじゃあ行ってくるけど…本当にひとりで大丈夫か?」
そう心配する父を、亜美は笑顔で送り出す。
「もー大丈夫だって!楽しんできて」
「すぐに帰って来るからね。帰るときは連絡するから…」
「はいはい。どうぞごゆっくり~!」
20年連れ添いながらも、まるで付き合いはじめたばかりの恋人同士のような両親を、亜美は愛おしく感じていた。
「亜美…本当にありがとうな」
「へへ…さ、私のことはいいから~。行ってらっしゃ~い!」
こうして、両親を見送った亜美。
しかしまさか、これが両親との最後の会話になるなどとは──、その時は思いもしなかったのだった。