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セイドレイ【完結】
第3章 はじめての朝
次に亜美が両親と会ったとき。
すでにふたりは、変わり果てた姿となっていた。
(なんで…どうして……────)
まだ肌寒い春の夜、亜美は搬送先の病院で、もう帰らぬ人となった両親と対面する。
2つ並んだベッド。
そこに横たわる両親の顔には、布がかぶせられていた──。
両親はディナーを楽しんだ後、車で家路へと向かっていた。
その際、飲酒運転により対向車線から乗り出してきた車と正面衝突し、即死。
相手の運転者は事故後しばらく意識不明の重体だったが、その後まもなく息を引き取ったそうだ。
両親の遺体の損傷は激しく、顔だけでは判別がつかないほどの事故だった。
(私が…私があんなこと言わなければ……)
亜美は自分を責めた。
自分が余計なことを言ったばかりに、両親をこんな目に遭わせてしまったのだ、と。
それから数日間のことは、あまり覚えていない。
すぐに親族一同が亜美の家に集まり、今後どうするのかを話し合っているようだった。
一方の亜美は葬儀を済ませたのち、衰弱しきって、自室のベッドで寝込んでしまっていた。
食事も喉を通らず、部屋を出るのは唯一、用を足すときだけ。
「亜美ちゃんまだ高校生なのに…なんて不憫なのかしら」
「これからどうするんだ?あんな可愛い娘をひとり残して…」
「私もここに居られるのはあと数日だし…」
トイレに行くために横を通ったリビングから、そんな親族たちの会話が口々に漏れ聞こえてくる。
もちろん亜美とて、この先自分がどうなってしまうのか、気にならないわけではなかった。
しかしながら、今起きていることが果たして本当に現実なのか、どうにも受け入れ難かったのだ。
(私が…私があんなこと言わなければ……)
ただただ後悔だけが募り、その先へ進むことができない。
亜美の両親は仕事の関係で、もともと生まれ育った地元からは離れた場所で暮らしていた。
不幸なことに、亜美の父方の祖父と祖母はすでに他界しており、母方の祖母も病気療養中。
ほか、亜美の叔父や叔母も居ることには居るのだが、亜美を引き取ることが現実的に難しい者ばかりだった。
「亜美ちゃん、ちょっといいかしら…?大変な時に申し訳ないんだけど…」
親族のひとりがそう言って、亜美の部屋を訪れた。