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セイドレイ【完結】
第19章 風評

「──おい、変な噂流すのやめてくんないか?」

そう言って、1人の男子が女子のスマホを取り上げた。

「み、水野くんっ…!?」

貴之だった。

「ちょっ…!返してよ!私のスマホ!!」

「──勝手なこと言われんの嫌だからはっきり言っとく。俺と亜美は付き合ってる。でも、荒垣さんが告ってきたときはまだ付き合ってなかった。しかも俺から告ったから。亜美はなんも悪くねーよ」

普段の温厚な雰囲気とはまったく違う貴之に、女子たちは思わず息をのむ。

「それから…この変な動画についてだけど。これ、俺んとこにも届いたから。あんなのどー見ても亜美とは別人だし、くだらない言いがかりつけるなら、先生に言って対処してもらうけど。彼氏の俺が違うって言ってんだから、違う。あれは亜美じゃない」

亜美はふたつのことに驚いていた。
ひとつは、貴之が自分を庇ってくれたこと。
無条件に味方をしてくれる男など、これまでいなかった。
そんな貴之の優しさと頼もしさに感動すら覚えてしまう。

しかしその一方で──。


(俺のとこにも…届いた…って──?)


この動画が、すでに貴之の手元に渡っていたという事実に亜美は驚愕する。
これがふたつ目の驚きだった。


「──ふんっ!そんなこと分かってるわよ。ただ、男子がバカみたいにこれが高崎さんだって大騒ぎしてたからちょっとからかっただけじゃん。あーうざ。もう行こ、授業始まるし」

女子はそんな捨て台詞を吐くと、それぞれ席に戻った。

「…亜美、気にすんな。俺がいるから」

「水野くん…ごめん…なんか──」

ふたりは小声でそう言葉を交わし、貴之は何事もなかったかのように席に戻っていった。

どうして動画が出回ってしまったのか──亜美にはその原因が分からなかったが、貴之にはなんとなく予想がついていた。

おそらく、冗談半分でクラスの男子が女子にもあの動画を広めたのであろう。
そして、女子たちは千佳の一件にこじつけて、亜美に嫌がらせをしようとしたのだ。

すなわち、誰も本気であの動画に映る少女が亜美だとは思っていない──貴之はそう考えていた。


「(そりゃそうだよな。俺だって、あれが亜美だなんて最初は思わなかった。いや、今でも思いたくねぇよ。だけど…だけどっ──)」


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