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セイドレイ【完結】
第19章 風評

「──あのスマホは…実は中学のときから持ってたものなの。でも、ここへ引っ越してきたときに、おじさんにスマホ禁止って言われちゃって…だからおじさんにはもともと持ってないことにして、バレないようにトメさんに預かってもらってるの。いつも見てるのは…引っ越す前の友だちとメッセージのやり取りしてるだけだよ…?」
もっともらしい理由に聞こえただろうか──亜美は貴之の反応をおそるおそる待った。
「──そっか。そうだよな。俺も引っ越す前の友だちとは今でも連絡取ってるし。やっぱさみしいよな~」
うまく貴之を欺けたことに内心ホッとする亜美。
しかし、また嘘をついてしまったことを心の中で懺悔する。
(ごめんね…水野くん──)
そして、今朝の件について亜美のほうから切り出した。
「──あのね、今朝のことなんだけど…」
「気にすんなって。あんなのただのいちゃもんだし」
「ねぇ…水野くんは…さ。あれが私じゃないって…信じてくれる?」
「う…ん。そんなわけ…ないじゃん。ほんとくだらねーよな、あいつら」
今度は貴之が嘘をついた。
ほかの誰よりも、あれが亜美ではないと信じたいのは貴之である。
クラスメイトたちが亜美を傷つけようとするのは、本当に許せなかった。
だからそこに嘘はない。
しかし、もし真実を追求してしまったら──亜美との関係が崩れてしまうのではないかと思うと、そのほうが怖かった。
「(俺だって信じたい。亜美を疑いたくなんかない、けどっ──)」
もしあれが亜美だったとして、きっとなにか事情があるに違いない──貴之はそう自分に言い聞かせていたのだった。
「──ありがとう、水野くん」
「あ、当たり前だろ?だからもうその話はおーわり!」
「ねぇ…。しよっか」
「へ……?」
「このまえのつづき。ダメ…?」
「そ、そんなっ…ダメなわけないけどっ…でもっ…どこでする…?」
ふたりは付近を見渡すと、貴之がある場所を指さした。
「あ、あそこの本屋…俺この前行ったんだけど…。たしか、店の外にトイレがあって…──いや、ごめん。そんな場所でしたくないよな。ったく、俺なに言ってんだ…」
「いいよ。そこでしよっか」
「ま、マジで…──?」

