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セイドレイ【完結】
第3章 はじめての朝
亜美が布団をかぶったまま返事をせずにいると、その親族はこう続けた。
「…こんな時にね、亜美ちゃんにいろいろ言うのはおばさんも辛いんだけど…。ねぇ亜美ちゃん…武田のおじさん、覚えてる?」
(武田の…おじさん?あ…たしか…誰だっけ?そういえばお葬式にもそんな名前があったような…)
記憶が曖昧だったが、聞き覚えのある名前だった。
「最近は全然会ってないと思うから亜美ちゃんは覚えてないかもしれないんだけど…。今回こういうことになって、お葬式にも来てくれたのよ。顔を見たら多分誰だか分かるわ。…で、その武田のおじさんがね、亜美ちゃんを引き取ってもいい、って言ってくれてるの。もちろん、亜美ちゃんさえよければ、なんだけど…」
(え……──────)
「武田のおじさん家だったら、学校は転校にはなっちゃうんだけど一応県内だし、産婦人科を経営してるからね、お屋敷も大きくて…。しかも、おじさんの知り合いが理事をしてる学園が近くにあって、そこに編入できるように色々口利きしてくれる、って…」
(私は…どこにも行きたくなんかない…!)
「おじさんね、2年前に奥さんを癌で亡くして、今は二人の息子さんしかいなくて…。おばさんもね、ちょっとそこは亜美ちゃんが嫌かな?って思うんだけど…。そうそう、それでね?亜美ちゃん確か、将来お医者さんになりたい、って前に言ってた記憶があるんだけど…おじさんがそれを知ってね、もし医学部を目指すなら、学費とかその辺のことは全部面倒見てくれるっ、て言ってくれてるのよ」
(………………………………)
「おじさんとこの長男の健一君も医学部出身で、今研修医として大学病院に勤めているんんだけど、きっと亜美ちゃんの力になってくれるだろうし、環境的には一番いいんじゃないか、ってみんなで話していたところなのよ…」
(…そんな親族が居るなんて…。パパもママも、今まで一言も言ってなかったけど…)
「も、もちろん亜美ちゃんの気持ちもあるし、まだ高校に入学したばかりでお友だちと離れちゃうのは辛いと思うんだけど、おばさんたちもね、あまりに急なことだし、いろいろ事情もあって、ほかにいい方法が見つからなくて…。なんか急かすみたいで心苦しいのだけど…」
(私…みんなを困らせてるんだ。そりゃそうだよね…──)