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セイドレイ【完結】
第20章 朔
学校での生活も、ようやく落ち着きを取り戻しつつある。
荒垣千佳の味方についた女子たちの視線は冷ややかなままだが、とくにあれ以降大きなアクションはない。
例の動画についても、どこまで拡散されているかは不明だが、表面上は沈静化しているように思えた。
そして、貴之はこれまで以上に亜美を気遣うようになっていた。
登下校にはじまり、今では昼休みも一緒に過ごしている。
亜美はそれをうれしく思う反面、そのせいで貴之が友だちを作る機会を失っているのではと気がかりだった。
亜美がその旨を伝えると、「俺がしたくてそうしてるんだから気にするな」と、優しい笑顔で言った。
そしてふたりはほぼ毎日のように、下校中の公園や本屋のトイレなどでセックスに及んでいた。
貴之は完全に、亜美とのセックスにのめり込んでいた。
もちろん、性的な対象としてのみ見ていたわけではない。
彼なりに精一杯の愛情を持って、亜美を理解し、守りたいと思う気持ちに今も嘘はない。
しかし、いざ亜美を目の前にすると──その気持ちはどこかへ消え失せてしまう。
カラダを重ねる回数が増えるほど、飽きるどころか、むしろその底知れぬ深みにはまっていった。
では、亜美はどうなのか。
貴之が好意を持って接してくれていることは十分理に解していたし、味方になってくれることも頼もしかった。
貴之のことは好きだ。
特別な存在には違いない。
だが、亜美はその貴之に対しても──セックスの際はほかの男にするのと同じように振舞った。
そんな亜美の姿は、貴之からすれば性に奔放で積極的な女に映ったであろう。
だがそれは違う。
むしろ逆なのだ。
処女喪失から今日まで、合意なき関係ばかりを強要されつづけた亜美は、セックスにおける "主体性" を完全に失っていた。
いや、正確に言うならば、知らないのだ。
人がどんなときに、なんのためにセックスに及ぶのか。
そこにはどんな意味があって、感情や選択が伴うのか。
亜美はなにも知らなかった。
ただ、目の前に男が居て、自分は女であるということ。
亜美のセックスに対する観念は、たったこれだけなのである。
そのせいで、貴之を相手にしているときも、ほかの男たちに仕込まれた "技" を自然と披露してしまうのだ。
この大きな誤解が、貴之を肉欲の世界へ引きずり込んでしまうとは知らずに──。