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セイドレイ【完結】
第20章 朔
そんな亜美と貴之の状況を知ってか知らずか、近ごろすっかり鳴りを潜めてしまったのは──雅彦である。
もうしばらくの間、雅彦は亜美を抱いていない。
必要最小限の連絡事項を伝える以外は姿を現すことすらなく、亜美の行動を制限する役目は今や新堂に取って代わられていた。
しかしその新堂も、この数ヶ月はとくに変わった動きはない。
本山とは、これまでどおりメッセージのやり取りをするに留まっている。
亜美は、嵐の前の静けさを感じていた。
そんなタイミングで見た母の夢──。
夢の中での母は腹に生命を宿しており、その胎児を「亜美」と呼んでいた。
しかし次の瞬間、とても哀しい表情を浮かべ消えていく──。
以前にもこの夢をみたとき、たしかあれは──分娩室で雅彦に処女を奪われたあの夜、睡眠薬で眠らされていたときに見た夢だったはず。
亜美はその夢に、なにか因縁めいたものを感じずにはいられなかった。
(ママ…私に何を伝えようとしてるの──?)
それから数日後の夜。
この日はめずらしく客の予約が入っていなかった。
慎二も寝ているのか、襲ってくる気配は今のところない。
こんな穏やかな夜は何ヶ月ぶりだろうか。
亜美は宿題を済ませ、今日はもう早めに寝てしまおうかとも思ったが──ひとつ、この機会に確認しておきたいことがあった。
あまり気は進まなかったが、亜美はとある部屋へと赴いた。
ドアの前で深呼吸をして、ノックをする。
「──誰だ?」
「私です。少しお時間よろしいでしょうか…?」
亜美がドアを開けると、マッサージチェアにもたれかかる雅彦の姿があった。
入浴後間もないのか、上半身は裸で、首にタオルをかけている。
「どうした。お前がたずねてくるなどめずらしい」
「おくつろぎのところ…すいません。ちょっとお話したいことがあって…」
「──入りなさい」
「は、はい…。では、失礼…します」
亜美は部屋に入りベッドに腰を下ろすと、雅彦もそのとなりへ移動してきた。
「要件はなんだ?」
「あの…多分、なんですけど──」
「──ああ。ワシもそろそろだな、とは思っていた」
亜美は、生理が遅れていることを雅彦に伝えた。
「また…検査しますか?」
「うむ…──」
いつになく、雅彦の歯切れが悪い。
そこで、亜美はもうひとつ気になっていたことをたずねてみる。