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セイドレイ【完結】
第20章 朔
数週間後──検査結果によれば、信哉の精液にはまったく精子がいない無精子症との診断。
このため自然妊娠は不可能であり、ほかの手段を考えるしかなくなった。
信哉に真実を告げるのが心苦しい雅彦。
しかし検査結果伝える日、来院したのは奈美1人だけで、そこに信哉の姿がない。
どうやら仕事の都合で来ることができなかったらしい。
雅彦は、信哉が無精子症であること、自然妊娠は難しいこと、そして今後どうしていくべきかについて奈美に説明をした。
すると、奈美はショックというよりもどこか淡々とその現実を受け止るだけでなく、信哉本人に無精子症であることを伝えないでほしいと言う。
これにはさすがの雅彦も驚いた。
しかし「主人が知ったらショックだから」という奈美からの懇願に負け、雅彦はしぶしぶながらこれを了承してしまう。
そうなれば治療を中断せざるを得ず、今後のことはまた折を見て決めることにしてその日は終わった。
それから数ヶ月が過ぎたころ、雅彦に1本の電話が入る。
相手は信哉からだった。
「──に、妊娠した?!」
受話器越しに信哉は、たしかにそう言った。
今後、出産までは自宅近くの産院に通うという。
雅彦は耳を疑うも、信哉が嘘をついているとも思えない。
だが、それはありえない──。
雅彦は迷ったが、涙ながらに懐妊を喜ぶ信哉の声を聞いていると、どうしても真実を伝えることができなかった。
そして、待望の赤ん坊が生まれた。
「亜美」と名付けられた女の子は、玉のように愛くるしい子だった。
雅彦は複雑な心境ながらも、出産祝いにと夫婦のもとへかけつけた。
生後間もない亜美を、雅彦はその腕に抱いていたのだ。
亜美はその後もすくすくと成長し、4歳になったころ──久々に信哉から雅彦のもとへ電話があった。
「──DNA鑑定がしたい、だと…?」
信哉は、日々成長する亜美の顔が夫婦どちらにも似ていないことを気にしているという。
さらに、亜美の血液型が本来生まれるはずのないものだという理由で、奈美に内緒でDNA鑑定をしたいという相談だった。
雅彦は胸騒ぎを覚えつつ、血液型は絶対ではないこと、子どもの顔は変化していくことを念押しする。
そのうえで、どうしてもというなら少し高額にはなるが、配偶者の同意なしでDNA鑑定ができる機関があることを信哉に伝えたのだった。