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セイドレイ【完結】
第20章 朔
「──だが悪いことは言わん。鑑定するにしても奈美さんに内緒でやるのは感心できん。まずは夫婦で話し合ってみたらどうだ?」
雅彦は思い悩む信哉をそうたしなめたが、信哉はその後、奈美に黙ってDNA鑑定をしてしまう。
──結果として、亜美は信哉の子ではなかった。
その報告を受けた雅彦は、一度信哉と会って話すことにする。
信哉は、自分の子ではないが亜美が可愛いことには違いないと、その複雑な胸中を打ち明けた。
今後もその事実は隠したまま、自分の子として育てていくつもりがあるようだったが、ふとしたときに急に自信がなくなるとも言った。
そんな信哉を見ていると雅彦はいたたまれなくなり、ついに無精子症のことを本人に伝えてしまう。
それを聞いた信哉は逆上し、どうしてそのときに教えてくれなかったのだと、雅彦を責め立てる。
この4年もの間、なにも知らなかったのは自分だけだ、そんな自分を影で嘲笑っていたのだろうと、行き場のない怒りを雅彦にぶつけた。
それ以来、信哉と奈美が雅彦の前に姿を現すことはなかった。
11年後、変わり果てた姿で再会することになるまでは──。
♢♢♢
「──ワシが知っていることは以上だ」
話しを聞き終えた亜美の胸に、夢で見た母の、あの哀し気な表情が浮かんでくる。
果たして母がどういうつもりだったかは、雅彦の話だけでは分からない。
いくつも疑問が生じたが、それを一番問いたい相手はもうこの世にいないのだ。
不思議と涙は出なかった。
亜美が知るかぎり、両親は本当に愛情を持って育ててくれたし、今でもそう思っている。
「──何も知らなかったのは…私だけなんですね」
亜美はそう小さくつぶやいた。
「ほかに…聞きたいことはないのか?」
「はい。もう…大丈夫です」
すると雅彦は亜美の肩に腕を回し、耳もとでこうささやく。
「…今夜はここで寝ていきなさい。心配するな、ワシはもう役立たずの老いぼれだ」
「はい…────」
ふたりはそのままベッドに潜り込む。
掛け布団からかすかに漂う、雅彦の体臭と消毒液の混ざったにおい。
(お父様のにおいがする────)
「──…消すぞ」
雅彦が部屋の明かりを消し、ふたりは夜の闇に包まれた。