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セイドレイ【完結】
第20章 朔
亜美が失意の中でポツリとつぶやいた一言が、雅彦の深層心理へ突き刺さったようだ。
15歳の小娘に辛辣なまでの図星を突かれたことを必死で否定するように、雅彦はこれまででもっとも暴力的なセックスを亜美にぶつけた。
いや、もはやこれはセックスなどではない。
紛れもない、暴力だった。
そんな暴行を続けること数十分──突如、雅彦はハッと我にかえり、ピタりと動きを止める。
目の前で、亜美は無言のままグッタリとうなだれていた。
そのカラダには、無数のアザと歯形が付いている。
まさかそれが自分のしでかしたこととは──雅彦はにわかには信じられなかった。
慌てて雅彦は亜美を抱きかかえ、軽く揺さぶり声をかける。
「──お…おい、亜美?亜美っ…?」
「おと…う…さま──」
亜美は手を伸ばし雅彦の頬に触れると、こう呟いた。
「──おかえり…なさい」
雅彦はそのとき、得体の知れない感情を覚えた。
それは亜美が言ったように、"恐怖" なのか、それとも──。
亜美の透き通るような肌に刻まれた、無数の傷痕。
雅彦は、自身が噛んだその首元の歯形痕を、優しく愛でるように舌で愛撫した。
「あっ……おとおっさま……あぁんっ……──」
うっ血した患部に雅彦の舌が触れるたび、ヒリヒリとした痛痒さが増幅され、亜美は言いようのない切なさに襲われる。
雅彦はその後も、その傷痕ひとつひとつに薬を塗るかのように、患部に短い口づけをしては丁寧な愛撫を続けた。
暗闇の中で、愛憎の念が入り交じるふたり──。
そして亜美は繰り返しオーガズムに達した。
亡くした両親のことも、出生の秘密も、貴之のことも、生理が遅れていることも──今はこの男の腕の中ですべて忘れたかった。
亜美は雅彦のことを誰より憎む一方で、渇望もしていたのだ。
自分をこんなふうにした張本人の男が、このところ自分に関心を示さなくなっていたように思えたことが許せなかったのだろう。
雅彦が感じた得体の知れない感情の正体は、これだったのかもしれない。
奪う者と、奪われた者。
しかしどちらも、互いに人生を狂わされていた。
そのことが、強い憎しみを伴う歪んだ愛となって、ふたりを支配した。
この日以来、亜美と雅彦の関係性は急速に変化していく──。