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セイドレイ【完結】
第21章 満月の喧騒

「──クソッ…!どこまでワシをバカにすれば気が済む?!そうやってワシか勃つか試しているのか?!ワシがこうなった途端に色目なんか使いおって!!もういっぺん言ってみろ!?ワシの子がほしいだと??ふざけたことを抜かすのもいい加減にしろっ!!」

激昴する雅彦──その形相は、我を忘れて亜美を暴行したあの夜とまったく同じだった。
雅彦は亜美に馬乗りになる。
そしてその首を絞めようと手をかけた、そのとき──。


「──私…もう分かんない。自分がなんで生まれてきたのかも…なんで生きてるのかも……」


虚ろな表情でそう言った亜美の頬に、一筋の涙が伝う。


「だって…私だけ…なにも知らなかった。ママがどんな気持ちで私を産んだのかも、パパがどんな気持ちで私を育てたのかも…。自分はただ愛されてたって…そう思ってた。それだけは本当だ、って。だからどんなことに辛いことがあっても耐えてみせるって…そう…思ってた」

「お、お前っ…──」

「──でも、もういい。もうぜんぶ忘れたい」

「そっ…それと、ワシの子がほしいことに、一体なんの関係がある?」

「──お父様は…私じゃないとダメ、なんでしょ?」

雅彦のカラダが一瞬、ピクりと震える。
あどけなさを残していた少女の顔が、女の顔つきへと変貌を遂げた瞬間だった。

「だから私を本当に必要としてくれるのは…お父様なのかな、って」

「な、なにを言ってっ──」

亜美はこのとき、なにを考えていたのだろう。
出生の真実を知ったショックで、心にぽっかり空いた穴を埋めようとしていたのかもしれない。

過去に2度までも自殺を試みたにも関わらず、その絶望の中で一縷の希望を信じて今日までどんな陵辱にも耐えてきた。
そんな辛い日々を支えていたのは、自分は愛されて生まれてきたのだという "記憶" だった。
その根底が揺らぎつつある今、亜美は自分を必要としてくれる相手に救済を求めたのだろうか。

それがたとえ、自分をこの地獄に突き落とした男だったとしても──。

「──本気で言ってるのか?」

「はい。だからもう一度言います。私、お父様の子どもがほしい」

亜美は雅彦をまっすぐに見つめ、そう言った。

その儚げな瞳。
しかし一切の迷いが感じられない、強いまなざし──。


「お前はワシのものだ。誰にもやるものかっ──」


そして雅彦は、勃起したのだった。
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