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セイドレイ【完結】
第23章 折衝
「──すいません。妻がつい取り乱してしまって…。ですが、亜美さんは…正直、たいへん容姿に恵まれております。こう言ってはなんなのですが、うちの貴之以外に男性との接点があってもおかしくはない、と…親心として、勝手ながらそう思ってしまった次第でありまして。無礼をお許しください…」
父のその言葉に、貴之は "あの動画" の存在が頭をよぎる。
その件について、両親には話していない。
仮にもしあれが亜美であれば、貴之以外の男と接点があった証拠となり得る。
しかし、貴之がなにより恐れていたのは、亜美を失うこと。
亜美を信じたかったし、守りたかった。
肉欲に溺れていたかもしれない。
だが、亜美とのセックスは貴之にとって感情を伴う行為であったこと──そこに嘘偽りはないのだ。
「──まぁ、私も親です。息子が2人居ますのであなた方のお気持ちは分からなくもない。ですが私としましても、真面目な亜美がまさかこんなことになるとは想像もしていませんでした。亜美に聞いたところ、先に交際を申し込んだのは貴之君の方からだとか。天国の亜美の両親にも、そこははっきりさせておかないと示しがつきません。これではまるで、私の大事な娘が "あばずれ" だと言われているようで、こちらとしても受容し難い」
まるであらかじめ決められた台詞をそのままなぞっているかのように、淡々と言葉を紡ぐ雅彦。
新堂に言わされているだろうことは明白だった。
人の気持ちを手のひらの上で転がし、もてあそぶ。
亜美は、そんな新堂のやり方にまんまと踊らされている自分が情けなかった。
貴之は自分を庇ってくれているのに、ただ黙っていることしかできない自分を呪った。
結果として、もっとも最悪な形で貴之を巻き込んでしまったのだ。
いっそのこと、この場でなにもかもぶちまけてしまいたい衝撃に駆られる亜美。
しかし、それでも亜美はこの場での沈黙を選んだのである。
そこにどんな悲愴な決意があったかを──ここにいる者たちは知らない。
「──ごめんなさい。つい感情的になってしまって…誰より傷ついているのは亜美さんなのにね。今さらだけど、体調は…どう?つわりはない?」
少し落ち着きを取り戻した紗枝が、亜美にそうたずねた。
「つわり…ですか?はい、今のところは──」