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セイドレイ【完結】
第23章 折衝
そして、亜美は自分の部屋へと戻ったのだが──そこには意外な男の姿があった。
「──おう。大丈夫か?って、その顔は大丈夫じゃねぇ、って感じか…」
「…け、健一さん?どうして私の部屋に…?」
「心配すんな。さすがの俺も今日はなんもしねーよ。それに、俺と一緒に居れば慎二が来ることはねぇから、安心だろ?」
「あ…ありがとう…ございます」
「まぁ座れって。こっち来いよ」
ベッドに腰掛ける健一の横に、亜美も腰を下ろす。
「──親父から聞いたよ。俺、最近ここに帰って来てなかっただろ?だからまさかこんなことになってるなんて思わなくてさ」
「そう…ですか…」
亜美の妊娠、そしてそれにまつわる諸々の事情を、健一はついさっき知らされたところだった。
「体調はどうだ?そろそろつわりとか…正直、客の相手すんのしんどいだろ?」
「それが…まだ、その…つわり?みたいなものはなくて…お客様の相手がしんどいのは、前から一緒なんで…」
「そっか。まぁ、俺がとやかく言える立場じゃねぇけど…」
「それよりも、水野くんのことが…。私、彼にとんでもないことを…」
「──亜美、ここから逃げろ」
「え…?」
「今すぐじゃない。第一、今は身重だからな。おそらく頃合いを見て、親父が処置することになると思う。そしたらこの家から逃げ出すんだ」
「に、逃げろって言われても…私には行く場所なんてどこにもないですし…」
「俺じゃ、ダメか?」
「え…?で、でもっ…健一さんはこの病院の後継ぎですし、それに…そんなことしたら…」
「いいんだよ。こんな病院潰れちまえば。研修さえ終わっちまえば、俺はもう自由だ。そしたら、誰も知らないどっか遠くへ行って、俺と亜美のふたりでひっそりと暮らす──」
健一は、以前にも似たようなことを亜美に言っているが、そのときよりもさらに真剣な様子がうかがえる。
仮に健一と逃げたとして、今の生活を続けるよりは何百倍もマシであろうことは、亜美も理解していた。
しかし、健一だって亜美に暴行を働くれっきとした犯罪者の1人なのだ。
結局はこの男も──亜美を無条件に自由にしてくれる手助けをしてくれるわけではない。
あくまで健一は、亜美を独占したいだけなのである。