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セイドレイ【完結】
第23章 折衝
客を含めたほかの男たちと比べ、健一は相対的にはまともではある。
しかし、ほかがより鬼畜であるからそう思えるだけで、亜美にとって健一の存在は希望にはなり得ない。
ベクトルが違うというだけの話で、健一も結局は自分のことしか考えていないのだ。
そうでなければ、自身がレイプした女に対して「一緒に暮らそう」などと、口が裂けても言えないはずである。
「──私、健一さんとは…ううん、お父様や慎二さんもですけど、もっと違った出会い方はなかったのかなって…今でもたまに思います」
「え…?」
「あの日──この家に来た日。私は新しい家族ができたと思ってうれしかったんですよ…ね。私をどん底から救ってくれた人たちだ、って…そう思ったんです。それに…私も医師を夢見ていたから、お父様や健一さんから…いろんなことを学びたかった」
「亜美……」
「でも…もういいんです。私はなにも知らな過ぎた。そして今は、もう自分のことさえもよく分からない。おまけに関係ない人まで巻き込んでしまって…そんな状況で、自分だけ楽になりたいから逃げるなんて…私にはできません。だからせっかくですけど…ごめんなさい」
「──分かった。いや、いいんだ…俺こそごめん。実はさ、俺…またお見合いするんだけど…」
「あ、そうなんですか…?」
「うん。ていうか、ぶっちゃけ断れない感じでさ」
「というと…?」
「要は、新堂のおっさんの紹介なんだよ。どっかの社長令嬢かなんかでさ。歳は俺の10個上…。まぁたぶん、選り好み過ぎて行き遅れた、って感じの人なんだろうけど。うちの病院の再建にも力を貸してくれるとか言っててさ。だけどなんでか、親父は反対してるっぽいんだよな…」
「お父様が…?それは…なにか理由があるんでしょうか?」
「…さあ。たぶん、今親父と新堂のおっさん、あんまうまく行ってないんじゃねーかな。おそらく亜美が原因で」
「私が…?」
「ま、分かんねーけど。たぶんね。俺にはそう見える、ってだけ。なんか、お互い噛み合ってねー感じかすんだよな」