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セイドレイ【完結】
第24章 性夜の鐘

壇上から全校生徒を眺める。
亜美にとってこの光景は、まだ貴之と出会う前、1学期の終業式に見たものとほぼ同じであろう。
そう──、今日この生徒たちの中に、貴之の姿はなかった。
亜美の妊娠について、貴之の両親と話し合いが行われたのは、つい昨日の話である。
昨日はあのまま、健一と一晩を過ごした。
手を出すつもりはない、と言っていおきながら、結局最後は我慢できなくなったらしく、口内に1発と膣内に2発、計3発の健一の射精を受け止めた。
それから朝まで、同じベッドで眠った。
途中、慎二が部屋の様子を覗き見していたような記憶がうっすらとあるが、昨夜は健一のおかげで慎二の襲来を回避できた、と思うべきだろう。
雅彦とはあれ以降まだ話をしていないため、話し合いがどう決着したのかを亜美はまだ知らなかった。
しかし──貴之は今日、学校を欠席している。
発作のせいで体調不良なのかもしれないが、おそらく昨夜の話し合いと関係があることは明らかだろう。
亜美は嫌な予感がしつつ、少しだけホッとしてもいた。
あんなことがあった昨日の今日で、貴之とどう接するべきか分からなかったからだ。
いや──優しい貴之のことだ。
きっと今日学校で顔を合わせても、なにもなかったかのように普段どおりに振る舞ってくれたであろう。
気まずいのは、自分が後ろめたいからであって、貴之に落ち度はなにひとつとしてない──亜美は、これまでとは比べものにならないほどの自己嫌悪に陥っていた。
自分自身が傷つくことよりも、誰かを守れないことの方が想像を絶する苦しみがあるのだと、あらためて身をもって知ったのである。
終業式が終わり、大掃除などを済ませ、午前中で学校は終わった。
貴之と一緒に下校することが当たり前になっていたこの通学路も、久々に今日はひとりだ。
この街へ越してから、初めての冬を迎える。
今夜から明日にかけて、この冬最大の寒波がやってくるらしい。
去年の今ごろはなにをしていただろうかと、亜美は振り返る。
高校受験の勉強に打ち込む中、クリスマスに正月…今はもういない家族との思い出が、遥か遠い昔の出来事のように感じられた。
すると亜美はふと歩みを止め、進路を変更する。
なにを思ったのか、今まで1人では一度たりともしたことがない寄り道をしようと、複合型の商業施設がある方向へと歩いて行った。

