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セイドレイ【完結】
第25章 暗転

翌日の夜──。
亜美は勉強机に向かい、黙々と冬休みの課題に取り組んでいた。
今夜、雅彦は病院の看護師たちを連れて忘年会に行っているため家を空けており、健一が帰省してくるのも明日の夜以降、とのこと。
つまり、今この屋敷にいるのは亜美と慎二の2人だけ、ということになる。
いつもであればこの時間、亜美は地下室で客の相手をするための準備をしているころであるが──新学期がスタートするまではその必要もない。
亜美はそんなつかの間の静かな夜に、できるだけ課題を片付けてしまおうと考えていた。
そのときふと、亜美のペンを持つ手が止まる。
そして時計に目をやると、20時を回ったところだった。
(そろそろ…慎二さんが起きてくるころかも──)
亜美の妊娠が偽装だったことについては、すでに健一も慎二も知っている。
去るクリスマスイヴの夜に、雅彦の口から2人に伝えられたからだ。
2人とも驚きはしたものの、それが亜美の「この家の家族になる」という確固たる意志の裏づけでもあると知ると、あっさり納得したようだった。
というよりも、そこまで深く考えていない、というのが正しいかもしれない。
ともかく、武田家にとって亜美がピルを服用していることは、言わば公然の秘密となっていた。
あとはどこまで新堂を騙し続けることができるか──課題はそれだけのように思える。
となると、亜美が今もっとも気がかりなのは、2日後に控えた貴之との最後の話し合いである。
一体どんな顔をして、無実の罪を着せられた貴之の謝罪を受け止めればよいのか──亜美は未だ分からぬまま、ただただそのときが来るのを待っていることしかできなかった。
(──いけないいけない。今は集中して、とりあえずこれを終わらせなきゃ…)
亜美は気を取り直し、ふたたびペンを走らせる──するとそのとき、あの地鳴りのような足音が廊下から響いてくる。
(はぁ…。来ちゃった──)
慎二の襲来を察知した亜美は、深くため息をついた。
だが、仕方あるまい。
これが亜美の望んだ居場所なのであり、望んだ家族なのだから──。
「──グヘヘッ、亜美~?なにしてるのぉ~??」
慎二は当然かのようにノックもせずにドアを開け、ズカズカと亜美の部屋に入ってくる。
「ご、ご主人様…。今、冬休みの課題をやっていたところですっ…」

