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セイドレイ【完結】
第26章 形勢
「ええっ…!?でも、亜美ちゃんが……」
この状況で帰るという慎二に、田中は驚きを見せる。
「…う、うん。まぁ…俺が何とか…するからさ…」
慎二は虚ろな表情でそう答える。
「で、でも…」
「大丈夫大丈夫。なんかゴタゴタしちゃってごめんね田中さん。俺、タクシーで帰るからさ。また…連絡…するわ……」
慎二はそう言うと、おぼつかない足取りで部屋を出て行った。
パタン、と玄関のドアが閉まる音が虚しく響く。
田中はふと、慎二が置いて行った黒いビニール袋に目が止まる。
中を確認してみると、そこには田中の好きなアニメキャラのコスプレ衣装が入っていた。
「し、師匠……」
田中はそれを複雑な表情で見つめると、さっきまでうずくまっていたのが嘘かのようにスっと立ち上がり、部屋にある小さなクロゼットの扉の前に立つ。
「…亜美ちゃん、ごめんね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方、田中の部屋を後にした慎二はタクシーを拾い、帰路へついていた。
タクシーの中で呆然とした表情に明け暮れる慎二。
率直に言えば、この時慎二は亜美を「見捨てた」のだった。
いや、見捨てざるを得なかったというべきか。
自分の不注意で亜美が何者かにさらわれた。
もしこの事実を雅彦が知ったら、穏やかではないだろう。
さすがの新堂とて冷静ではいられないはず。
地下室でのビジネスを含め、亜美にまつわる全ての秘密が白日の元に晒される危険性がある。
たとえ誘拐犯が水野貴之だとして、そうなれば亜美の命は無事であろうが、目的が不明である以上、何をしでかすかは分からない。
大体、亜美のことは雅彦や新堂が勝手に始めたこと。
そんなことの責任を負わされてたまるものかと、慎二は記憶を書き換えようとしていた。
気づいたら、亜美が家から抜け出していた。
だから俺は知らない、関係ない。
「…だから俺は知らない、関係…ない!」
タクシーの後部座席で、小さく念仏のようにそう唱え続ける慎二を、運転手はルームミラーで不審に思いながらも、目的地である武田クリニックへ車を走らせていた。
この状況で帰るという慎二に、田中は驚きを見せる。
「…う、うん。まぁ…俺が何とか…するからさ…」
慎二は虚ろな表情でそう答える。
「で、でも…」
「大丈夫大丈夫。なんかゴタゴタしちゃってごめんね田中さん。俺、タクシーで帰るからさ。また…連絡…するわ……」
慎二はそう言うと、おぼつかない足取りで部屋を出て行った。
パタン、と玄関のドアが閉まる音が虚しく響く。
田中はふと、慎二が置いて行った黒いビニール袋に目が止まる。
中を確認してみると、そこには田中の好きなアニメキャラのコスプレ衣装が入っていた。
「し、師匠……」
田中はそれを複雑な表情で見つめると、さっきまでうずくまっていたのが嘘かのようにスっと立ち上がり、部屋にある小さなクロゼットの扉の前に立つ。
「…亜美ちゃん、ごめんね」
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一方、田中の部屋を後にした慎二はタクシーを拾い、帰路へついていた。
タクシーの中で呆然とした表情に明け暮れる慎二。
率直に言えば、この時慎二は亜美を「見捨てた」のだった。
いや、見捨てざるを得なかったというべきか。
自分の不注意で亜美が何者かにさらわれた。
もしこの事実を雅彦が知ったら、穏やかではないだろう。
さすがの新堂とて冷静ではいられないはず。
地下室でのビジネスを含め、亜美にまつわる全ての秘密が白日の元に晒される危険性がある。
たとえ誘拐犯が水野貴之だとして、そうなれば亜美の命は無事であろうが、目的が不明である以上、何をしでかすかは分からない。
大体、亜美のことは雅彦や新堂が勝手に始めたこと。
そんなことの責任を負わされてたまるものかと、慎二は記憶を書き換えようとしていた。
気づいたら、亜美が家から抜け出していた。
だから俺は知らない、関係ない。
「…だから俺は知らない、関係…ない!」
タクシーの後部座席で、小さく念仏のようにそう唱え続ける慎二を、運転手はルームミラーで不審に思いながらも、目的地である武田クリニックへ車を走らせていた。