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セイドレイ【完結】
第30章 姿なき脅迫
たまらず雅彦は画面に掴みかかるが、その直後、映像はそこで途切れてしまう。

時間にして3分程の短い映像。

一体誰が、なんの目的でこんなものをポストに入れたのか、雅彦には分からなかった。

ただひとつ言えること。
亜美を連れ去った犯人は、武田家で亜美が暮らしていたことを知っているということだ。

元からそのことを知った上で亜美を誘拐したのか。
それとも、例えば身代金目的の誘拐で、さらった後に亜美から武田家の情報を聞き出したのか。

どちらにせよ、こうして動画を送り付けてきたということは、何かしら雅彦に対して要求があるはずだ。

雅彦は思う。

これは脅迫に違いない。

新堂はこのことについて、既に何か情報を掴んでいるのか。

それともーー。

この動画がいつ頃撮影されたのかは定かではないが、犯人の目的が脅迫であるならば、恐らく亜美はまだ生きているだろう。

いや、そう信じたいだけかもしれない。

亜美が姿を消してからこの半月の間、雅彦は夜も眠れぬ程その消息が気がかりであったことは確かだ。

しかし、何も進展が無い中で突如舞い込んできたこの現実に、雅彦は全身を震わせ、得体の知れない恐怖に慄いていた。

これは単なる始まりに過ぎないであろうことも当然理解していた。

犯人は少なくとも、昨夜から今朝方にかけて、武田家のポストにこのDVDを入れて行ったのだ。

大胆不敵とも思える犯人の行動。

新堂にこのことを伝えるべきなのか。

自分はこれからどうして行けば良いのかーー。


画面には映像が止まったまま、拘束された亜美の姿が静止画として映し出されている。

その様子は、これまで自分達が亜美にしてきたことと、大差無いのかもしれない。

亜美からすれば、現在拘束している犯人も、雅彦たち武田家の人間も、自身の自由を奪い、暴行を働く陵辱者には違いないのだから。

自分の欲望のままにしでかしたことの代償が、今現実となって雅彦の元へと現れたのだ。

これからどうなるのか、どうするべきなのかは分からない。

しかし、何がどうなろうと、もう元の日常には戻れないであろうことだけは確かだった。

雅彦はしばらくそこを動けないまま、画面に映る亜美の姿をただ眺めているだけだった。
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