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セイドレイ【完結】
第30章 姿なき脅迫
世の中には、特殊な性癖を持った女も居るのかもしれない。
貴之とて、そんな漫画や映像をいくらでも知っている。
だがそのほとんどは、あくまで男が思い描いた身勝手な妄想では無かったのか。

現実の女性が、ましてや15歳の少女が、好き好んで豚のような男達にまたがり、妊娠すら厭わないセックスに興じていたことになる。

そして、その孕んだ子の責任を、貴之ひとりに背負わせるために、恋人ごっこをしていたということなのか。


それが事実なら、仕方がない。


ただ、よりにもよって、それが自分が初めて愛した女性で無くてもいいではないか。

それが、あの高崎亜美でなくてもいいではないかーー。


そんなどうしようもない考えが、貴之の頭の中を支配していた。


当の亜美本人は、今頃見知らぬ海外の地で、全てを忘れて暮らしているのだろうか。

ひょっとしたら、もう既に異国の男を誘惑しているのかもしれない。

あのカラダで。


一度は愛した相手のことを、嫌でもこんな風に考えてしまう自分がひどく情けなかった。

結局のところ、亜美を守ることなどできなかったのだ。

いや、初めから亜美はそんなこと、望んでいなかったのかもしれない。

あの日、公園のトイレから亜美を連れ去った時。

亜美が耳元でささやいた言葉が、今も頭から離れないでいる。
何故あの時、あんなことを亜美は伝えてきたのだろう。

でももうその意図を確かめる術はない。

あるのは、ただ高崎亜美という少女が魔性の女であったという客観的な事実のみだ。


もう忘れよう、貴之はそう思った。


両親にも散々心配をかけた。
これ以上、要らぬ世話はかけたくない。

普通に高校を卒業して、大学に進学して、就職をして、少しでも親を安心させなければいけない。
持病のこともある。

劇的なものはもういい。

至って普通の、至って詰まらない人生を歩んで行けば、いつしか亜美とのことも、夢だったと思える日が来るであろう。


「…くん、水野君!」


下校時、貴之は自分を呼ぶ声に足を止め、振り返る。


「あ……えっと…新垣…さん?」


そこに立って居たのは、かねてから貴之に好意を寄せていた新垣千佳の姿だった。


「…ちょっと、今から時間ある?」



千佳が貴之に尋ねる。
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