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セイドレイ【完結】
第30章 姿なき脅迫
「あー…ったく、めんどくさいなぁ……」

尿意を感じた慎二は、その日初めて自室を出た。

ドアの前に、内藤が作った食事が置かれている。

トイレに向かう途中、亜美の部屋の前を横切る。

わざと大袈裟な足音をさせては、亜美を襲いに行くのが日課だった。

あの日以来、亜美の部屋には入っていない。

何故かふと気になり、部屋を覗いてみる。



何もかも、あの日のままだ。

机には、あの夜、数学の課題を解いたメモが置かれている。

壁に目をやると、カレンダーが去年の12月で止まっていた。

過去に遡って一枚一枚めくっていく。

おびただしい数の『正』の字が、所狭しとカレンダーを埋め尽くしている。

ちゃんと数えたことなど無いが、優に1000発近くは超えているだろうか。

会員の数を含めれば、もっとあるだろう。

カレンダーには、子を孕んだ日も刻まれていた。

一体、どんな気持ちで毎日これを眺めていたのだろう。

そもそもどうして、亜美は逃げ出さなかったのだろう。

今まで考えたことすら無かった。

ただ、自分の父親が連れてきた少女を、好きに犯していいと言われたからそうしていただけだ。

そこに、何の疑問も持たなかった。

そして今、亜美はどこかへ消えてしまった。

母親がこの世を去ったように。

ならば、また引きこもればいいだけの話だ。


そう思っていた。


慎二は、今自分の胸に滞在している気持ちの正体が分からずにいた。

亜美が消えた原因を作ったのは自分であることを、一応は認めている。


ネットに動画を投稿して、見せびらかしたかった。

亜美に出会う前の自分と同じような、画面の前で自慰にふけるしか無いような男達に、自慢の奴隷を誇りたかった。

幼い頃、まだ友達が誰も持っていないゲームを買ってもらった時、ちょっとだけ得意気になれた、あんな気持ちだった。

自分の好きな玩具を、自慢したかった。


好きな…亜美を…?



「…おい慎二、こんなとこで何してんだ?」

部屋の外から声がする。

「兄…貴………?」

「…親父から急遽帰って来いって言われてさ。亜美のことで何か進展があったらしい。で、お前を呼んで来いって言われたんだが部屋に居なかったから…」

「進展って……分かった。小便したら行くよ」
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