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セイドレイ【完結】
第6章 破瓜
亡き父の「医師になりたかった」という言葉が、今や遺言のようですら思える。
亜美はそんな父の意志を引き継ぎ、医師を目指す決意をひっそりと胸に固めていた。
それには相当な努力が必要になることも分かっている。
特に女性である亜美には、体力的に厳しい診療科もあるだろう。
(とにかく…ここでたくさんのことを学ばなきゃ…)
両親の死により命の尊さを思い知った亜美の新しい住処が、絶えず産声が聞こえる産婦人科であるということ。
そのことに、亜美はなにか運命めいたものを感じずにはいられなかった。
「ふぅ…ちょっと休憩しよっかな…」
亜美は荷解きを一旦中断し、休憩を取ることにした。
屋敷は今もどこかしらリフォームをしているようで、業者が出入りしていて騒がしかったが、しんみりしているよりはずっといい。
「やっぱり、ここへ来てよかった…」
ただひとつ気がかりなのは、この家の次男、慎二の存在。
引きこもりであることは事前に聞かされていたが、ここへ来て数時間、まだその姿を見ていない。
長男の健一については雅彦から大体の話を聞いたが、不思議と慎二のことはあまり語りたがらなかった。
今夜は、長男の健一が帰ってくるらしい。
亜美の "歓迎会" を兼ねて、"家族4人" で夕食をとる予定だそうだ。
そんな武田家の厚意をありがたく感じつつも、男にまったく免疫のない亜美は、この家の男たちとこれからどうやって関係性を築いていけば良いのか想像もつかないでいた。
男ばかりの中で生活することにも、いささか抵抗がある。
そもそも雅彦はさておき、ほかの二人には歓迎されているかも分からない。
亜美がここでの生活に抵抗があるように、相手も同じなのでは──、という不安もよぎった。
(そういえば…さっきキッチンにお手伝いさんがいたような…)
亜美はふとあることを思い立ち、キッチンへと向かう──。
「あの~、すいません……」
「…あらあら、はじめまして。亜美ちゃん…だったかしら?」
「あ、はいっ!今日からお世話になる亜美です。よろしくお願いします」
「まぁ。そんなかしこまらなくていいのよ!礼儀正しい子ねぇ。私はここの家政婦で、内藤と申します。困ったことがあったらなんでも聞いてちょうだいね。この家のことは私が一番詳しいから!」
内藤の底抜けに明るい声に、亜美は少しホッとする。