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セイドレイ【完結】
第32章 漂泊
『教えてあげてもいいけど、その代わり、私と付き合って』


これが千佳からの返信だった。
亜美が居たかもしれないマンションの所在地を教える代わりに、貴之に恋人になってほしい、ということらしい。

けじめをつける、などと言ってしまったのが災いしたか。

後日、今度は貴之が千佳を誘い、この前と同じファストフード店に来ていた。

その件について、ちゃんと話し合うためだ。


「…で、ちゃんと考えてくれた?私の条件」

悪びれも無い様子で、千佳がそう言う。
確かに千佳からしてみれば、海外に行ったはずの恋敵の居場所をタダで教える義理は無いだろう。

しかし。

「…その、さ…仮にそれで俺と付き合うことになって、新垣は嬉しいのか…?恋愛ってもっとこう……なんつーか、自然に始まって行くもんなんじゃないかな、って…」

「…ふーん。私は好きな人と居れるなら、別に何でもいいけど。じゃあ水野君と亜美ちゃんは、自然に?しぜーんにお互い両想いになって、しぜーんと付き合ってたってことなんだね」

「い、いや…それとこれとはまた違うっつーか…なんつーか……」

自分で言っておきながら、あらためて思い返すと不自然なことだらけだったと思う。

「………私だってそうだったんだけどな」

千佳が外を見ながら、小さくそうつぶやく。
気まずい雰囲気に耐えかねた貴之は、話を変える。

「新垣はさ…なんでそんなに俺のこと……好きになったんだ?俺、イケメンな訳でも無いし…頭もそこまで良い訳じゃないし…」

これは謙遜でも何でも無く、本当に分からなかったからだ。
そもそも今となっては、何故自分が亜美と付き合えたかも謎である。


「……野球、どうしてやめちゃったの?」


「え…………?ってか、俺が野球やってたこと…どうして知って…」


「私、水野君のこと、もっと前から知ってたんだよ。…亜美ちゃんよりも、ずっと前から……」


「それって…どういう……」


それは、千佳と貴之が中学三年生の頃に遡る。

初夏の陽気が漂う5月の週末。
その日千佳は友人と、自分が通う中学のグラウンドに居た。

この日は野球部の練習試合があり、その観戦をしていた。
と言っても、千佳は野球になど興味は無かったのだが…野球部の中に友人の彼氏がおり、その応援に無理矢理付き合わされたという格好だ。

「(あ~あ…つまんないの…)」
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