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セイドレイ【完結】
第34章 解放区
走り去る貴之の背中が、夜の闇の中へ消えて行く。

亜美はその消え行く背中をずっと見つめながら、その場に膝を落とした。

(ごめんね……水野くん………ごめんなさい…」

涙がポロポロと溢れて止まらなかった。
しかし、亜美は泣き声を出さないように、身を震わせながら必死にこらえた。

コートのポケットの中には、酒井から渡されたスマホが通話中の状態で入っている。

この、貴之との一部始終の会話を聞かせるためだった。

亜美はスマホをポケットから取り出すと、すっと数回鼻水をすすってから、耳にあてた。

「……もしもしっ…今…終わりました……」

『…お疲れ~亜美。いや~どこの女優かと思ったぜ。会話聞いてるだけで勃っちまったじゃねぇか!…みんな興奮して待ってるぜ~。今日はあんなガキのことなんか忘れちまうくらいぶっ壊してやるから安心しろよ。じゃ、すぐ戻って来いよ』

ブツッ。
ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ……

電話の相手は酒井だった。
電話の向こうには酒井の他、3人の客がマンションで待っている。

すると、公園の木陰で隠れて待機していた本山が、亜美の元へ近づいてくる。

「高崎……お疲れさん。寒かったろ…?」

「うっ…うぅっ……うっく……うぇっ……ううぅぇぇん……」

せきを切ったように、亜美が声をあげて泣き出す。
本山はそんな亜美を、そっと抱き締め、背中を数回ポンポン、と叩いた。

「…さ、そろそろ行かねぇと。辛いだろうが……」

「…い、いえっ…大丈夫っ…です……これで…これでやっと…私から水野くんをっ……解放…してあげられました。へへっ…先生も寒かったですよね。ごめんなさい…」

「高…崎………」


二人は車に乗り込むと、目と鼻の先にあるマンションへと戻って行った。



事の発端は、マンションの住所を知った貴之が、その付近で人の出入りを見張っていたことに始まる。

オートロック式のマンションであるためエントランスより先に侵入することはできないのだが、その時一人の会員が亜美を尋ねてやってきた。

部屋のナンバーを押し、エントランスのドアが解放される。
そのエントランスの状況は、部屋からカメラ付きインターホンで確認できるのだが、たまたまそこに映り込んでしまった貴之の姿を、運悪く応対した新堂に見られてしまったのだった。

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