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セイドレイ【完結】
第35章 空蝉
食事を終えた二人は、カフェを出た。
恋人らしく手を繋いで街を歩く。

亜美と初めて手を繋いだのはいつだったかーー。

貴之はぼんやりそんなことを思う。
亜美に対しては、たとえ触れていなくても側に居るだけでドキドキと胸が高鳴った。

今はどうだろう。
千佳の手も小さくて柔らかく、女性に触れているのだな、とは思う。
しかし、人が違うから当たり前かもしれないが、その何もかもが違う、と感じた。

亜美との交際を経験したことで、慣れてしまったのだろうか…ということにしてしまうことも出来たが、そうでないことは貴之本人が一番分かっていた。

結局のところ、自分もあの色香に惑わされていただけなのだろうか…と貴之は思う。

雅彦が言ったように、あれは魔性の女だったのか。
いや、それ以前に亜美本人から、そうである事実をあの日公園で突きつけられたのだ。

童貞を捨てた女と刺激的なセックスを繰り返したことで、その肉欲に溺れてしまったのを愛だと勘違いしていただけかもしれない。

だとしたら、亜美から疎ましく思われても仕方ない、貴之はそう結論付けようとしていた。


「…変なこと…聞いていい?」

歩きながら、千佳が貴之にそう尋ねる。

「…どした?何?」

すると少々の間を置き、ためらいながら千佳が言った。

「亜美ちゃんとは…さ、その……そういうこと…してたの?」

さすがに鈍感な貴之でも、千佳の質問の意図は分かった。
当然、気になるところなのだろう。
貴之は迷う。正直に言うべきか、それともーー。

いずれにせよ、もう過去のことだ。
たとえ貴之が亜美とセックスしていたからと言って、それは千佳には関係無い。

「……ああ。してたよ」

「そっ……か。そうだよね……付き合ってたんだもん…ね」

その言葉とは裏腹に、明らかに千佳のテンションが下がったのが見て取れる。

「別に…関係ないじゃん?今俺が付き合ってんのは千佳なんだし…」

千佳を慰めたつもりでそうフォローした貴之だったが、まるで自分自身に言い聞かせているようでもあった。

嫌でも貴之の脳裏に、亜美との情交の記憶が蘇る。

あんなことを…あんなセックスを覚えてしまった自分は、果たして元に戻れるのだろうか…と。


「…たっ…貴之がしたいんだったら……私は…いつでもいい…よ?」

「……えっ?」
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