この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セイドレイ【完結】
第35章 空蝉

亜美の件に加えて、雅彦にはもう一つ悩みを抱えていた。
それはこの病院『武田クリニック』の経営についてである。
先代である雅彦の父から受け継いだこの病院は、過去に一度、大きな経営危機に陥ったことがあった。
融資先が見つからず、妻と幼い息子二人を連れて夜逃げさえ考えていた矢先、無利子で融資を行い病院と武田家の人間を救ったのが他ならぬ新堂だった。
その後、雅彦は身を粉にして働き一時的に経営を立て直したのだが、数年前から再び思わしくない状態が続いている。
後継ぎである健一が医者になるのにも、想定していたより時間を要してしまった。
現在、まだ研修医の身である健一が後を継ぐまでは何としてでも病院を存続させなければならないし、老朽化した設備への投資も必要だ。
当初その解決策として、新堂から紹介された何人かの令嬢と健一を結婚させようともしていたのだが、それも思ったようには進まず、そうこうしているうちに妻が亡くなり、挙句に慎二が引きこもってしまったことも加わって、更に雅彦の頭を悩ませることとなった。
もう一度、新堂に泣きつくほかないのかと暗澹たる気持ちでいたところ、あの日、亜美という少女に出会ったのだった。
本来であれば、亜美を引き取る余裕など雅彦にはなかった。
仮に、亜美の両親が事故死したことによる保険金や遺産の一部を病院経営の方に充当したとしても、一時的なしのぎにしかならない。
しかし雅彦はそれとは別に、どうしてもその少女を、亜美を手に入れたいという衝動を抑えられなかった。
そこで例のビジネスを思い立ち、新堂に協力を持ちかけた…というのがこれまでの流れである。
このまま、今のこの状況が長引けば、間もなく病院の経営は傾き、いずれ破綻するだろう。
もちろん、新堂はそのことを全て分かった上で、雅彦の元から亜美を連れ去ったのだ。
自分の非を認め、新堂に頭を下げるべきか。
それで済まされることとも思えないが、雅彦はいよいよ決断を迫られているような気がしていた。
どのみち亜美はもう、雅彦の元へは戻ってこないであろう。
ならばせめてーー。
「……親父っ!ちょっと来てくれっ!!」
慎二が慌てた様子で雅彦の部屋にやって来た。
「…なんだ騒がしい」
「いいからっ!早くっ!!」
それはこの病院『武田クリニック』の経営についてである。
先代である雅彦の父から受け継いだこの病院は、過去に一度、大きな経営危機に陥ったことがあった。
融資先が見つからず、妻と幼い息子二人を連れて夜逃げさえ考えていた矢先、無利子で融資を行い病院と武田家の人間を救ったのが他ならぬ新堂だった。
その後、雅彦は身を粉にして働き一時的に経営を立て直したのだが、数年前から再び思わしくない状態が続いている。
後継ぎである健一が医者になるのにも、想定していたより時間を要してしまった。
現在、まだ研修医の身である健一が後を継ぐまでは何としてでも病院を存続させなければならないし、老朽化した設備への投資も必要だ。
当初その解決策として、新堂から紹介された何人かの令嬢と健一を結婚させようともしていたのだが、それも思ったようには進まず、そうこうしているうちに妻が亡くなり、挙句に慎二が引きこもってしまったことも加わって、更に雅彦の頭を悩ませることとなった。
もう一度、新堂に泣きつくほかないのかと暗澹たる気持ちでいたところ、あの日、亜美という少女に出会ったのだった。
本来であれば、亜美を引き取る余裕など雅彦にはなかった。
仮に、亜美の両親が事故死したことによる保険金や遺産の一部を病院経営の方に充当したとしても、一時的なしのぎにしかならない。
しかし雅彦はそれとは別に、どうしてもその少女を、亜美を手に入れたいという衝動を抑えられなかった。
そこで例のビジネスを思い立ち、新堂に協力を持ちかけた…というのがこれまでの流れである。
このまま、今のこの状況が長引けば、間もなく病院の経営は傾き、いずれ破綻するだろう。
もちろん、新堂はそのことを全て分かった上で、雅彦の元から亜美を連れ去ったのだ。
自分の非を認め、新堂に頭を下げるべきか。
それで済まされることとも思えないが、雅彦はいよいよ決断を迫られているような気がしていた。
どのみち亜美はもう、雅彦の元へは戻ってこないであろう。
ならばせめてーー。
「……親父っ!ちょっと来てくれっ!!」
慎二が慌てた様子で雅彦の部屋にやって来た。
「…なんだ騒がしい」
「いいからっ!早くっ!!」

