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セイドレイ【完結】
第37章 零落

「…こうするしか…無かった。お前達のためにも、そして亜美のためにも……」
雅彦は力無くそう呟いたが、健一と慎二は当然納得ができない。
「…健一、慎二。ちょっと落ち着け。雅彦に言わせるのは酷だからな、私から説明するとしようーー」
2日前、久しぶりに新堂からの電話を受けた雅彦。
その用件は、亜美を武田家に連れ帰る、というものだった。
もちろん、雅彦はその事を手放しでは喜べなかった。
何故なら亜美を連れ去ったその張本人は新堂であり、その新堂が亜美を引き渡す気になったということは、そこには必ず何か理由があるはずだったからだ。
まず、亜美が妊娠している状態にある、ということ。
生配信の時点から妊娠週数を起算したとしても、そろそろ見た目にも腹が膨らんで来る頃だった。
このことから、新堂はその始末を産科医である雅彦にさせるつもりであるだろうことは容易に想像ができた。
しかし、新堂の要求はそれだけに留まらないことを、雅彦は分かっていた。
亜美を引き渡す代わりに、雅彦に対して何らかの制裁を下すのは目に見えていた。
そしてそれらの予感は、半分は的中することとなる。
新堂は、亜美の腹の子に関しては『状態を診てやってくれ』と言うだけで、具体的にどうするかなどは一切言わなかった。
むしろ腹の子のことなど然して問題でも無いかのように、すぐに別の話を持ち出してきた。
そう、それこそが。
この『武田クリニック』の譲渡についてだった。
かねてから病院が経営不振に陥っていることは分かっていたことであり、それを立て直すために地下室でのビジネスを始めた。
しかし、新堂を敵に回し、亜美も居ない状況が長引けば、経営が立ち行かなくなるのは時間の問題であり、雅彦自身がそのことに焦り始めていたのは事実であった。
そんな雅彦の足下を見るかのように、新堂は雅彦に病院を手放すことを要求した。
それが、亜美を引き渡す条件だったのだ。
病院だけでなく、隣に構える住居についても、建物や土地、その他一切の権利を他者に譲渡するというものだった。
そしてその買い手は新堂では無く、会員の中に居る経営者の男ということだった。
雅彦は力無くそう呟いたが、健一と慎二は当然納得ができない。
「…健一、慎二。ちょっと落ち着け。雅彦に言わせるのは酷だからな、私から説明するとしようーー」
2日前、久しぶりに新堂からの電話を受けた雅彦。
その用件は、亜美を武田家に連れ帰る、というものだった。
もちろん、雅彦はその事を手放しでは喜べなかった。
何故なら亜美を連れ去ったその張本人は新堂であり、その新堂が亜美を引き渡す気になったということは、そこには必ず何か理由があるはずだったからだ。
まず、亜美が妊娠している状態にある、ということ。
生配信の時点から妊娠週数を起算したとしても、そろそろ見た目にも腹が膨らんで来る頃だった。
このことから、新堂はその始末を産科医である雅彦にさせるつもりであるだろうことは容易に想像ができた。
しかし、新堂の要求はそれだけに留まらないことを、雅彦は分かっていた。
亜美を引き渡す代わりに、雅彦に対して何らかの制裁を下すのは目に見えていた。
そしてそれらの予感は、半分は的中することとなる。
新堂は、亜美の腹の子に関しては『状態を診てやってくれ』と言うだけで、具体的にどうするかなどは一切言わなかった。
むしろ腹の子のことなど然して問題でも無いかのように、すぐに別の話を持ち出してきた。
そう、それこそが。
この『武田クリニック』の譲渡についてだった。
かねてから病院が経営不振に陥っていることは分かっていたことであり、それを立て直すために地下室でのビジネスを始めた。
しかし、新堂を敵に回し、亜美も居ない状況が長引けば、経営が立ち行かなくなるのは時間の問題であり、雅彦自身がそのことに焦り始めていたのは事実であった。
そんな雅彦の足下を見るかのように、新堂は雅彦に病院を手放すことを要求した。
それが、亜美を引き渡す条件だったのだ。
病院だけでなく、隣に構える住居についても、建物や土地、その他一切の権利を他者に譲渡するというものだった。
そしてその買い手は新堂では無く、会員の中に居る経営者の男ということだった。

