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セイドレイ【完結】
第39章 分水嶺
その頃貴之は、とある一軒家の二階にある洋間に居た。

「(嘘…だろ?どう見たってここ、普通の民家じゃないか…)」

職場の先輩である村尾に連れられ、ほぼ成り行きのまま人生初の『風俗店』に訪れた貴之は、そのあまりの想像との違いに驚いていた。

金を払い、その対価として性的サービスを受ける。
詳しい仕組みは知らなかったが、ついこの間まで高校生だった貴之でも、繁華街等で風俗店の看板を見たことはあった。

しかし、いざたどり着いてみると、そこは住宅街の中にある、至って普通の二階建ての一軒家だった。

貴之が不思議に思っていると、

『さっき予約しといたからさ』

と村尾は言い、その家の前で誰かに電話をかけた。
すると、その一軒家の中からスタッフと思しき男が現れ、貴之と村尾を家の中へ招き入れた。

自宅に上がるのと同じように、靴を脱ぎ、玄関を上がると、貴之はまずシャワーを浴びるように言われた。

浴室も、自宅と同じような、至って普通のものだ。

訳も分からないまま、汗で汚れたカラダをシャワーで洗い流す。
風呂から上がり、置かれていたバスタオルを腰に巻くと、スタッフから二階の部屋へ通され、そこで待つように言われた。

部屋は8畳程の広さで、シングルサイズのベッドが置かれている。
部屋の角には間接照明が置かれていて、薄暗く照らされた室内が一応は『それっぽい雰囲気』を醸し出しているが、しかしそれでもやはりただの民家には違い無かった。

貴之は状況が飲み込めないまま、ベッドに腰を下ろして待機する。
なぜだか急に不安が押し寄せ、落ち着かなかった。

「…!?」

隣の部屋から、声と音が漏れ聞こえてくる。

カン高い女の喘ぎ声と、ベッドが軋む音。
そして地鳴りのような雄叫びーー。


「ま、マジかよ…」


貴之は思わず呟く。
それは確かに、セックスの音だった。

一枚隔てた壁の向こうで、知らない男女がセックスに興じているのだ。

そのあまりの非現実的な感覚に、貴之は完全に呑まれていた。

どうにかここを脱出しなければーー、そんなことを考えていると、部屋のドアを開け、一人の女が入って来た。

「…お待たせしましたぁ。『あすか』ですっ。よろしくお願いしまぁす」

ブレザーの制服に身を包み、黒髪のロングヘアをなびかせながら、女は貴之の横に座ると、カラダを寄せて密着させて来る。
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