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セイドレイ【完結】
第39章 分水嶺
「…さーて、亜美。今日もお散歩の時間だ。起きろ」

深夜。
亜美はその声で目を覚ます。

声の主は、菅原拓真。

「今日は何着て行こうか…あ、これなんていいかもな」

そう言って衣装の中から菅原が手にしたのは、白いV字のレオタードだった。
それは身につけることが無意味に思える程、ほぼ紐のような役割でしか無く、全裸と大差ない露出度のものだ。

亜美は無言でそれを身に纏う。

「う~ん、なかなかいい。ワガママおっぱいとボテ腹が余計目立って。エッチじゃん?よし、じゃあ今日はこれで行くか。さて、と」

菅原はそう言うと、まず亜美に首輪を装着した。
次に、ガムテープで亜美の目と口を塞ぐと、両腕を後ろ手に縛り、同じく両脚も拘束した。

そして、地下室の床に置いたかなり大きめのボストンバッグのファスナーを開け、なんと亜美のカラダを折り込むようにその中へ入れたのだ。

小柄な亜美がギリギリ収まる程のバッグを重たそうに抱え、菅原は地下室を出て地上に上がり、武田家から外へ出る。

敷地内に停めた自分の車のトランクを開けると、亜美が入ったそのバッグをトランクの中へ置いた。

そして、キョロキョロと数回人目を確認したのち、運転席に乗り込むと、どこかへ車を走らせて行った。


その一部始終を、雅彦は二階の自室の窓から眺めていた。

菅原のこの行動は、彼がここへ来た翌日の夜から始まった。
つまり、ここ一週間のことだ。

みだりに亜美をこの家から連れ出すことを、果たして新堂が許可しているのかは分からない。

だが、ほぼ毎晩のように、客の相手を終えた後の亜美を、あの大きなボストンバッグに詰めて、どこかへ走り出して行く。

雅彦も最初に偶然見かけた時は、まさかあの中に亜美が入っているなどとは思いもしなかった。

しかし、菅原が外出する時は決まって、地下室に亜美の姿は無かった。

ただでさえ身重であるにも関わらず、今夜も亜美は一体、どこで何をさせられているのだろう。

雅彦は亜美の身を案じながらも、何もしてやることが出来ない自分の無力さをただ感じていることしかできなかった。

数時間後に菅原が帰って来る車の音を聞くまでは、眠ることすらままならない、長い長い夜を過ごすしか無かったのだ。
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