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セイドレイ【完結】
第7章 絶望的観測
武田家の3人が共有している「亜美を引き取った本当の目的」。
当然ながら、亜美はそんな話し合いがなされていたことすら知らない。
しかし目的があろうがなかろうが、亜美にとってこの現実が理不尽であることには変わりない。
亜美が唯一分かったのは、少なくとも雅彦は "初めからそのつもりで" 自分を引き取ったのだろう、ということだけだった。
それに関してはもう疑う余地がない。
遠い親戚の娘を、なんの見返りもなく引き取ってくれる善人など、そもそもこの世にはいないのかもしれない──、と。
そんな亜美だが、この屋敷から逃げ出すことを一度も考えたことがないかというと、決してそうではなかった。
事実、学校にいる間は自由の身である。
教師に相談することも考えたが、自身が性的暴行を受けていることを打ち明ける勇気がなかった。
では、ほかの親族に助けを求めては?
交番にでも駆け込んでみるのはどうだろう。
いくつ選択肢が浮かばうとも、結局は同じ理由で躊躇してしまう。
亜美はもう、れっきとした "性的暴行の被害者" だった。
決して他人に知られてはいけない秘密を抱えてしまったのだ。
両親が死ぬまで何不自由なく育ってきたことも災いしていた。
仮に今武田家を飛び出したとして、そのあとをどうやって生きていけばよいのか、まだ15歳の亜美にはまったく見当もつかなかった。
さらに亜美は今どき珍しく、スマートフォンを所有していない。
それは親の教育方針でもあったのだが、亜美もこれまで特段不都合を感じてはいなかった。
そのため、インターネットで情報を得ることもできない。
こんな秘密を抱えていては、意識的にクラスメイトとも距離を置いてしまうのも仕方ないことだった。
なにがきっかけとなり、自分の置かれている状況がバレてしまうか分からない。
あんなおぞましい行為に及んでいることがもし他人に知れ渡りでもしたら──、亜美はそのことがもっとも恐ろしかったのだ。
(もし、仮にここから逃げ出すにしても…──)
もっと綿密な計画を練らなければ、と亜美はどこか冷静な部分もあった。
中途半端に行動することがもっとも危険であると、もともと賢い亜美は理解していたのかもしれない。
しかし、時にこの冷静さが仇になってしまうことも──、人生にはあるのかもしれない。