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セイドレイ【完結】
第40章 蚊帳の外の景色
慎二は、一番最初に投稿した動画を見ていた。

思えばこの直前、亜美は地下室の天井に吊るされた拘束具によって、自ら命を絶とうとしていた。
あらためて考えてみると、常軌を逸脱している。
自殺未遂を試みるまでに追い詰められていたはずなのに、その直後、自分をそこまで追い詰めた原因のひとつである男の上に跨って、腰を振っているのだ。

何もかもが狂っている、そう思った。
しかし、その狂っていく過程がたまらない興奮をもたらしていたことも、また事実だ。

もしかしたら、狂わされたのは亜美では無く、自分の方だったのかもしれない…などと思うのは、あまりに都合が良いだろう。

時系列で動画を追って行くと、当事者である慎二だけが読み取ることができる亜美の変化に気づく。

実際に事に勤しんでいる時には全く気づかなかったのが不思議だ。

これは慎二の勝手な思い違いかもしれないし、せめてそうであって欲しいと都合良く思いたいだけなのかもしれない。

それでも、動画の中の亜美は、アップロードした日付が新しくなるにつれて、少しずつではあるが表情が変化しているように思えた。

そもそも、初期の動画は慎二が思っていた以上に、亜美はその表情を苦痛で歪ませていた。
慎二は実際にそこに居たはずなのに、どうしてその時は全く気づかなかったのだろうか。

いや、そうでは無い。

亜美が抵抗しないのをいいことに、慎二はただ自分の欲望とセックスしていたのだ。
もはやそれは、人同士のセックスと言えるだろうか。
ただ、自分の妄想を具現化してくれる存在を使って、自慰行為をしていただけなのでは無いのか。

女性の蔑称として「便器」などと最初に言い出したのは一体どこの誰なのだろう。

慎二もそう思って疑わなかった。
便所で排泄をするように、亜美に欲望をぶちまけた。
風呂になど入らずとも、亜美に全身を舐めさせることでその代わりとした。

肉便器。
オナホール。
掃除機。
ティッシュ。

そんな蔑称を亜美に浴びせては、実際にそのように扱った。

しかし、動画の中で便器のように扱われていたのは、れっきとした15歳の少女。

そして、人間だった。

自分と同じように、怒り、悲しみ、喜びを持った、血の通った人間だったのだ。

そんな当たり前のことに、どうして気づかなかったのか。

違う。

どうして今になって、そんなことを思うのか、だった。
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