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セイドレイ【完結】
第40章 蚊帳の外の景色
その頃、武田クリニックの外観は、工事用の足場が組まれ、リニューアルに向けて着々と改修が進んでいた。

先日、例のニュース番組で、2回目の特集が放送されたばかりだ。
今回の内容は、『病院を救う救世主として現れた若手医師の素顔に密着』とでも言ったところだろうか。

放送後、すぐさま反響があった。
それは前回を上回る程で、数日経った今でも問い合わせの電話やメールが絶えず届いている。

皆、あの菅原という男の、人懐っこいマスクにまんまと騙されていた。
表向きは、愛想が良く患者からの評判も良い優秀な産科医。
長身で、適度に肉付きも良く、適度に清潔感もある。
黒縁メガネは適度に賢そうな印象を与え、かと言って適度に隙も覗かせる。
強いて言うならば、口元が若干だらしなく見えるところだろうか。
しかしそんなところがむしろ可愛げとなって菅原の魅力をより引き立たせているようにも思える。
頼りがいがありそうなのに、どこか放っておけない。
そんな母性本能をくすぐる、適度なバランスに優れた男。

こういう男はいざ探そうと思ってもなかなか見つからない。
全てにおいて「ちょうど良さ」を兼ね備えた男だった。

実際に患者の中には、診察の際に菅原が独身かどうかを尋ねて来る者もいた。
しかも雅彦に、だ。

『彼は独身ですよ』

何故自分が、1日に何度もこんなことを言わされなければならないのかと、雅彦は苛立っていた。

とは言いつつそんな雅彦も、菅原の『裏の顔』とまで言えることは、ほとんど知らなかった。

知っていることと言えば、深夜に亜美をボストンバッグに入れて、車でどこかへ出かけている、ということだけだ。

そもそも雅彦とて、立派な裏の顔を持っているのだ。
一人の少女の人生を狂わせた張本人である彼に、菅原の所業を咎めることなどは出来まい。

午前の診療を終え、雅彦が診察室で背を伸ばしていると、ドアをノックする音がする。

『休憩中、失礼します』

そう言って菅原が診察室に入ってくる。

「お疲れ様です。すいません、この患者さんのことなんですけど…」

何やら、仕事についての確認のようだった。
雅彦は要件を聞き、適切な指示を与える。
飲み込みも早く、余計なことは一切言わない。

仕事をする上では、非常にやりやすいはずの部下だった。

彼が真っ当な人間ならば、の話だが。
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