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セイドレイ【完結】
第41章 愚かなる兆し
「………もし今、高崎のこと…あいつにまつわる全てのことが世間の明るみになったとしたら…って、お前さんは一度でも考えたことあるか?」

用務員で本山は、田中にそう問いかけてみた。

すると田中は表情を曇らせ、うつむき加減でこう返した。

「……ありますよ。それこそ、毎日考えてます。正直なところ、生きた心地がしないって言うか…いつ、家の前に刑事が立ってるんじゃないかと…怯えています。パトカーを見るだけでも、無意識に身を隠そうとしてしまって…でも、」

「…でも?」

「…これは、今僕が亜美ちゃんに触れることができないからそう思うだけかもしれませんが…一人で抱えているのが辛くなって…自首しよう、と思って警察署の前まで行ったこともありました…結局、僕にはそんな度胸は無かったんですけど」

「……そうか」

新堂に脅され、半ば強制的に亜美の監禁に加担してしまった田中。
彼がしたことも決して許されることでは無いが、亜美に対する罪の意識は日を追う毎に増していった。

「…だけど、仮に僕が自首したところで、新堂さんには酒井さんという強力な後ろ盾がいます。しかも僕は彼らと違って、ただの下っ端です。彼らがやっているビジネスのことも会員達のことも、詳細は何も知りませんし…僕なんかが一人動いたところで、亜美ちゃんを救えるとは思えなくて……ただ逃げているだけと言われればそれまでですけど」

「……高崎を救いたいと…そう思うか?」

「……分かりません。何が亜美ちゃんの救いになるのかも、僕には…………」

田中は言葉を詰まらせる。
約半年に及んだ亜美との監禁生活は、彼にとってはこれまでの人生で一番満たされた時間だった。
亜美に対し、献身的なまでに世話を尽くしていたのは、せめてもの罪滅ぼしと…ほんの少しの希望だった。
それが偽りの愛と知りながら、いつか自分の想いが亜美に届くのでは無いかと願って。

しかし、亜美と離れて過ごす今、それはただ犯罪の片棒を担いでいただけだと思い知る。
田中も他の男達と同様に、亜美の人生を狂わせたことには違いないからだ。

本山はそんな田中の横顔を不憫に思いながら、少し間を置いて再び話し始めた。


「…実はな、これは誰にも言って無かった話なんだが…あいつ、俺が契約したスマホを持ってたんだよ」

「……スマホ…ですか?先生が契約したって…一体どういう…」
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