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セイドレイ【完結】
第42章 原風景
雅彦が地下室の監視モニターをチェックしたその翌日。
(そろそろ…お昼か……)
日中、主に読書をして過ごしている亜美の元へ、菅原が昼食を運んでくる。
武田クリニックに入院している他の妊婦達と同様の病院食だ。
しかしその日、昼食を運んで来たのは菅原ではなかった。
「あれ……?おとう…さま?」
お膳を持って地下室へ入って来たのは、雅彦だった。
「…飯だ。ここへ置いておけばいいか?」
雅彦はそう言って、テーブルの上に昼食を置く。
「……今日はどうしたんですか?お義父さまがここへ来るなんて…大丈夫なんです…?」
「ああ。菅原君に許可をいただいてな。今ここの監視は緩くなっているし、食事を運ぶくらいは問題ない」
「そう…ですか。お忙しいのに…すいません」
亜美は遠慮がちにそう言うと、軽く会釈をする。
ふと、亜美が手にしている一冊の本が雅彦の目に留まる。
『母性という神話』
本の題名にはそう書かれていた。
「随分と難しい本を読んでいるんだな。確かこれは…」
バダンテール,E.著。
1980年、フランスで発行されるやいなや大反響をもたらした、フェミニズム歴史学の金字塔となった本だ。
原題は『L'Amour En Plus(後から付け加わった愛)』
本書は、女性が持つとされる『母性』と『本能』の結びつきに異議を唱える内容で、あくまで母性愛というものは子供との触れ合いの中で育まれるものであり、それを本能とするのは父権社会のイデオロギーである、というもの。
『母性本能』などというものは、男が抱いた幻想であり、神話に過ぎない…といった内容だろうか。
今現実に、その腹に生命を宿している亜美がこの本を手に取っているということに、雅彦はただならぬ意味を感じてしまう。
「…お義父さまもこの本、ご存知でしたか?いつも菅原さんが図書館で色々借りて来てくれるんですけど…『母性』に関しての本が読みたい、って言ったら、これを借りてきてくれて。私には難しいかな、と思ったんですが、読み始めたら意外とスラスラ……」
「…ほう。あいつのチョイスというわけか。益々訳の分からん男だな…まぁいい。読書が気分転換になっているなら何よりだ。何か得るものはありそうか…?」
「…そうですね。まだ読んでる途中ではありますけど……」
(そろそろ…お昼か……)
日中、主に読書をして過ごしている亜美の元へ、菅原が昼食を運んでくる。
武田クリニックに入院している他の妊婦達と同様の病院食だ。
しかしその日、昼食を運んで来たのは菅原ではなかった。
「あれ……?おとう…さま?」
お膳を持って地下室へ入って来たのは、雅彦だった。
「…飯だ。ここへ置いておけばいいか?」
雅彦はそう言って、テーブルの上に昼食を置く。
「……今日はどうしたんですか?お義父さまがここへ来るなんて…大丈夫なんです…?」
「ああ。菅原君に許可をいただいてな。今ここの監視は緩くなっているし、食事を運ぶくらいは問題ない」
「そう…ですか。お忙しいのに…すいません」
亜美は遠慮がちにそう言うと、軽く会釈をする。
ふと、亜美が手にしている一冊の本が雅彦の目に留まる。
『母性という神話』
本の題名にはそう書かれていた。
「随分と難しい本を読んでいるんだな。確かこれは…」
バダンテール,E.著。
1980年、フランスで発行されるやいなや大反響をもたらした、フェミニズム歴史学の金字塔となった本だ。
原題は『L'Amour En Plus(後から付け加わった愛)』
本書は、女性が持つとされる『母性』と『本能』の結びつきに異議を唱える内容で、あくまで母性愛というものは子供との触れ合いの中で育まれるものであり、それを本能とするのは父権社会のイデオロギーである、というもの。
『母性本能』などというものは、男が抱いた幻想であり、神話に過ぎない…といった内容だろうか。
今現実に、その腹に生命を宿している亜美がこの本を手に取っているということに、雅彦はただならぬ意味を感じてしまう。
「…お義父さまもこの本、ご存知でしたか?いつも菅原さんが図書館で色々借りて来てくれるんですけど…『母性』に関しての本が読みたい、って言ったら、これを借りてきてくれて。私には難しいかな、と思ったんですが、読み始めたら意外とスラスラ……」
「…ほう。あいつのチョイスというわけか。益々訳の分からん男だな…まぁいい。読書が気分転換になっているなら何よりだ。何か得るものはありそうか…?」
「…そうですね。まだ読んでる途中ではありますけど……」