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セイドレイ【完結】
第42章 原風景
亜美が妊娠した末にここへ戻って来た時、雅彦はその圧倒的な母性を携えた亜美にめまいがしそうになった。
健一や慎二も、恐らく同様の感情を抱いていたに違いない。
今も、日毎に膨らんでいく腹を抱えながら佇む亜美の様子は、何者をも優しく包み込んでしまいそうな母性に満ち溢れているように見える。
しかし、それは男である雅彦が勝手に抱いている幻想なのかもしれない。
「…子供を産んだからといって、自動的にその子に愛情を注げるわけでは無いんですよね。他の感情と同じように、現れたり消えたりしながら、時間をかけて育んでいくものなんでしょうか。となると、私はこの子を……」
新堂が出産を許可した、という話は、実は雅彦も菅原から聞いて既に知っていた。
当然驚きもしたが、妊娠25週目に差し掛かった現在、もう後戻りは出来ない。
易々と新堂の言葉を鵜呑みにするのは危険ではあるが、何よりそれを亜美自身が望んだということに、雅彦はやり切れない感情を抱いていた。
「……あまり深く考え過ぎるのも良くない。ただでさえ…お前は普通の妊婦と違って、肉体的にも精神的にも余計な負担を強いられているんだ。今まだ何も起きていないことは幸運だと言える」
「そう…ですよね」
「……ところで、少しワシと話をしないか?」
「お話…ですか?」
「ああ。久しぶりに。…嫌か?」
「いっ…いえ……嫌だなんてっ…そんな……」
その時、亜美の頬はやや紅潮しているように見えた。
どこまでもいじらしく、愛くるしい少女がそこに居る。
全てを失ってでも、雅彦が自分のモノにしたかった少女がそこに。
「……最近、新堂はここへ来ているか?」
雅彦はまず、そう尋ねてみる。
「いえ…近頃は全然。私の面倒は菅原さんに、監視や雑用は本山先生に任せきりみたいで…かれこれひと月くらいは会ってませんね…」
やはり。
雅彦は心の中でそう思う。
新堂は明らかに、ここへ何度も訪れている。
しかし、対面しているはずの亜美がそれを知らないという。
すなわち、亜美はその間眠りについており、新堂の存在に気づいていなかった、ということだ。
「あ…でも、最近ちょくちょく気になることがあって………」
「…気になること?」
「ええ。もしかしたらお義父さまなのかな?って思っていたんですけど……」
「どうした。気にしなくていい。言ってみなさい」
健一や慎二も、恐らく同様の感情を抱いていたに違いない。
今も、日毎に膨らんでいく腹を抱えながら佇む亜美の様子は、何者をも優しく包み込んでしまいそうな母性に満ち溢れているように見える。
しかし、それは男である雅彦が勝手に抱いている幻想なのかもしれない。
「…子供を産んだからといって、自動的にその子に愛情を注げるわけでは無いんですよね。他の感情と同じように、現れたり消えたりしながら、時間をかけて育んでいくものなんでしょうか。となると、私はこの子を……」
新堂が出産を許可した、という話は、実は雅彦も菅原から聞いて既に知っていた。
当然驚きもしたが、妊娠25週目に差し掛かった現在、もう後戻りは出来ない。
易々と新堂の言葉を鵜呑みにするのは危険ではあるが、何よりそれを亜美自身が望んだということに、雅彦はやり切れない感情を抱いていた。
「……あまり深く考え過ぎるのも良くない。ただでさえ…お前は普通の妊婦と違って、肉体的にも精神的にも余計な負担を強いられているんだ。今まだ何も起きていないことは幸運だと言える」
「そう…ですよね」
「……ところで、少しワシと話をしないか?」
「お話…ですか?」
「ああ。久しぶりに。…嫌か?」
「いっ…いえ……嫌だなんてっ…そんな……」
その時、亜美の頬はやや紅潮しているように見えた。
どこまでもいじらしく、愛くるしい少女がそこに居る。
全てを失ってでも、雅彦が自分のモノにしたかった少女がそこに。
「……最近、新堂はここへ来ているか?」
雅彦はまず、そう尋ねてみる。
「いえ…近頃は全然。私の面倒は菅原さんに、監視や雑用は本山先生に任せきりみたいで…かれこれひと月くらいは会ってませんね…」
やはり。
雅彦は心の中でそう思う。
新堂は明らかに、ここへ何度も訪れている。
しかし、対面しているはずの亜美がそれを知らないという。
すなわち、亜美はその間眠りについており、新堂の存在に気づいていなかった、ということだ。
「あ…でも、最近ちょくちょく気になることがあって………」
「…気になること?」
「ええ。もしかしたらお義父さまなのかな?って思っていたんですけど……」
「どうした。気にしなくていい。言ってみなさい」