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セイドレイ【完結】
第42章 原風景
「…それとね、今日あたしが君にこんなことを言うのは……実は、あたし今月末でお店辞めるんだ」

「えっ…?」

「そ、そんな顔しないでよっ…。まぁ、そういうこと。もっと稼ぎたい気持ちもあるんだけど…もう潮時かな、って。この世界から抜け出せなくなる前に、足を洗おうと思っててね」

「そう…ですか………」

貴之はそう一言だけ呟くと、うつむいて黙り込む。

「せっかくこうして知り合えたのに…なんだかごめんね。でも、あたしにとっては良いことだって思ってくれたら嬉しいな。それでね……」

すると、あすかは一枚の名刺を取り出し、それを貴之に渡す。

「…名刺?名刺なら、前にも貰いましたけど…」

「裏見て、裏」

あすかに言われるがまま、貴之は名刺の裏面を見る。

「…え?こっ、これってもしかして…??」

「…そう。あたしのプライベートの連絡先」

名刺の裏面には、あすかの個人用携帯の番号と、メッセージアプリのIDが書かれていた。

「いっ…いいんですかっ??だって前にあすかさん、客には絶対教えないって言ってたのに…!?」

「うーん。あたしもちょっとは悩んだけど…君を信じてみようかな?って。あ、勘違いしちゃダメだよ?これに味を占めて他のキャストにプライベートな連絡先なんか聞かないよーに。一応、うちの店は禁止事項だからさ。まぁそれに、君とあたしはもう、客とキャストの関係でも無くなるしね…」

「でっ…でも、なんで?なんで俺なんかに…?」

「なんでだろ。興味、かな。君が道を踏み外さないよーに見届けたいっていうか…。自分でも、なんでこんなこと思うのか不思議なんだけどさ。とにかく、細かいことはいいの。それより、君がこれからまずしなきゃいけないことがあるでしょ?」

「俺が…しなきゃいけないこと?」

「…そう。君がやんなきゃいけないことは、風俗に通い詰めることでも、元カノを思い出してオナニーすることでもない。もう一人、ちゃんとケジメをつけなきゃいけない子がいるじゃん?」

「それって、もしかして……」

「そう。そのもしかして。えーと、なんて名前だったっけ…千佳ちゃん?まずはその子に、ちゃんと頭を下げるべきじゃないかな」

あすかは亜美の話の他に、千佳のことも聞いていたのだ。
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