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セイドレイ【完結】
第43章 箱庭
「…またお祈りメールかよ。ったく、俺の何がいけないって言うんだ!あー腹立つ…」

そう苛立ちを顕にしながら、コンビニで買った菓子パンを甘いコーヒーで流し込んでいるのは慎二だった。

今は夏ということでクールビズではあるが、ワイシャツにスラックスという出で立ちは慎二にとっては窮屈そのもの。

じっとしていてもその巨体からは大量の汗が噴きだし、既にワイシャツに大きな染みを作っている。

「しかも何だよこの暑さはよ…不快指数120%だぜ…」

慎二は自分で宣言した通り、人生で初めてとなる就活をスタートさせていた。
既に何社かに書類を出しており、その中の一社との面接が先程終わったところだ。

ちょうど昼時ということもあり、腹ごしらえにとコンビニに来たところ、別の会社から不採用通知のメールが届いたことに腹を立てていたのだ。

既に書類選考も含めて20社程に応募しているのだが、どれも手応えは今ひとつ。
先程面接を行った企業も、やはり慎二の履歴書の『空白期間』を気にしているようだった。

医学部受験に失敗した18歳から今日まで、彼には社会経験というものが無い。
アルバイトすら経験の無いままもうじき27歳を迎えようとしている彼に対し、社会の目は厳しかった。

住民票を田中のアパートに移してから、まず彼に降り掛かって来たのは国民年金と健康保険の制裁だった。
今まで親の扶養内でそれらを全く意識すること無く生きてきた彼にとって、そんな社会の仕組みひとつひとつが煩わしく疎ましい。

今はどうにか亜美の動画収入で得た蓄えがあるものの、それもいつかは尽きてしまう。

同居する田中は、無理せず好きなだけアパートに居てくれて良いと言うが、何せあの狭さである。
小柄な亜美を監禁するには何とか事足りていたかもしれないが、田中とて慎二程では無いにせよ大柄な部類なのだ。
暑苦しい男二人がひとつ屋根の下、狭小アパートで暮らすのにも限界があるだろう。

慎二は何とか、動画収入が尽きる前に仕事を見つけ、それを引越し費用に当てたいと考えていた。

しかし、今まで何もしてこなかった男が急に思い立って行動しても、世の中はそんなに甘くは無い。

慎二はその歳にして、やっと現実を目の当たりにしたのだ。

これまでは長い夢の中に居たのだと、そう思うしか無かった。
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