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セイドレイ【完結】
第43章 箱庭
「亜美…へへっ……久しぶりだね」

鼻をすすりながら、貴之がはにかんだ笑顔を見せる。

その笑顔は、日の当たらない日常を過ごしている亜美にとって、あまりに眩し過ぎた。

(ダメ…そんな顔……しないで…お願いっ……)



「…あの、さ……キスしても…いい?俺、亜美とキスがしたい……」

「だっ……ダメっ…だよ。汚れてるっ…から。2人から聞いてないの…?私、今さっき…この口で…あ、あの2人の………だから、汚れてるの。私、汚れた女…なんだよ…?前にも言ったよね…?汚いからっ…汚いこと平気でする……そんな女だからっ……だからダメっ…んっ!?んんっ……んぅ」


親方と村尾の小便を受け止めた亜美の口に、貴之が舌を絡めたディープキスをする。
きつい小便の味がまだ口内に残っているはず。
しかし貴之は、そんなこと気にも止めぬ様子で、亜美の口内に舌を這わせ、吸い、貪った。

長いディープキスが終わり、お互いの舌先が唾液の糸を引く。


「…亜美……綺麗だよ」

親方と村尾の小便が付着し少しごわついた亜美の黒髪を撫でながら、貴之はそう言った。

「……え?」

「汚くなんか無い。汚れてなんか…無い。すっげー綺麗だ……」

「ちっ、違うっ……だって私はっ……私は……」

「嘘じゃない。亜美より綺麗な女なんて…居ない。世界で一番可愛くて、綺麗なんだ」

「やめ…て……お願い……だって私…やっと……水野君のことっ…………あっ」


亜美はその時、このトイレにはカメラが仕掛けられていたことを思い出す。

この状況を後に菅原に問い詰められたら言い逃れはできない。
あんな思いをして貴之を守ったというのに、このことでまた傷つけることになったらーー。


「……亜美?どうしたの?」

すると亜美は、今度は自分の方から貴之に抱きつき、その耳元へカメラに拾われない声でこう囁いた。

「…ごめんなさい。録画されてるの。水野くん、トメさん家に行って、『あの日私が伝えたこと』をトメさんに伝えて。そしたら…そこに私の全てが詰まってる。でも、絶対に何もしないで。私は…この子を…お腹の子を…どうしても産みたい。だから約束して。こんな説明しかできなくてごめんなさい。また会えるかは…分からない。でも私はこの家の中に居る。ずっと…」

そして亜美は少し間を置くと、こう伝えた。

「私も、あなたに会えて良かった…」

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