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セイドレイ【完結】
第44章 鏡
その日を境に、菅原家の生活は一変する。

心身に深い傷を負った妹は情緒不安定になり、精神に様々な障害をきたしていた。
部屋から出ることができず、事件が起こった時間になるとフラッシュバックにより発作を起こす。

それまで家族の中で愛くるしい笑顔を振りまいていた妹の姿は、もうどこにも無かった。
愛する我が子の人生を、縁もゆかりも無い暴漢によって奪われた両親からも笑顔が消え、家庭内は憎しみと怒り、そして哀しみに支配されるようになった。
当然ながら、両親の関心はこれまで以上に妹へと集中する。

しかしそんな中で、一人だけ犯人に憎しみを抱かなかった者がいる。

それが、菅原だった。

表面上は、彼も両親と同じく犯人に怒りを顕にしていた。
しかし腹の底では、妹を絶望の淵へ『追いやってくれた』犯人らに対し、どこか感謝の念さえ抱くという異常性だった。

男に生まれたことで両親に虐げれてきた自分。
男にさえ生まれなければ。
女にさえ生まれていれば。

ずっとそう思って生きて来た菅原に、この事件が与えた衝撃は相当なものだった。

『女性の尊厳』というものが、男によってこんなにも一瞬で奪われてしまうとはーー。

美しいものが、汚される瞬間。

それはあまりにも残酷で、そして官能的だった。

彼の中に偶然にも芽生えてしまったこの性的倒錯は、歳を追うごとに加速度を増して行く。

表向きは真面目な学生を演じながら、裏ではレイプ物のAVや漫画、小説を読み漁っては自慰に耽った。
国内外問わず、現実に起きた強姦事件の概要を調べては、そこに綴られている文字面に酷く興奮した。

そんな彼がのちに起こした二度の強姦事件は、どちらの被害者も、当時菅原に好意を寄せていた者だった。
菅原の誠実そうな雰囲気に警戒を解いた女性を、無理矢理に襲ったのだ。

危険な妄想を実行に移してしまった彼は、そこでひとつの違和感を覚える。
二度までも犯行に及んだのは、一度目に抱いた違和感を、もう一度確認するため。

その生い立ちから、女というものに対して羨望を抱いていた彼。

彼は、泣き叫ぶ女性を無理矢理に陵辱することに性的興奮を覚えていたわけでは無いと、気づいてしまう。

自身こそが、そうありたいのだ、と。
自身こそが、美しくあり、汚されるべきなのだ、ということに。
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