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セイドレイ【完結】
第44章 鏡
その後、医大の卒業を待って、菅原は両親から勘当を言い渡される。
身内に性被害者が居ながら、同様の事件を起こした菅原のことを、両親はもう後継ぎとは考えて居なかったからだ。

これは菅原にとっても都合が良かった。
もう、とうの昔に家族に未練など無かったのだから。

医師として勤務しながら、果たして自分は女性に生まれたかったのだろうかと、菅原は日々、産婦人科に訪れる患者を診ながら考えていた。

今の時代、性適合手術を受けることはもはや珍しいことでは無い。
ジェンダークリニックを受診してみるべきかと、本気で考えていた時期もあった。

しかし、彼は別に女性として世間に認められたい訳ではなかった。
あくまで、美しいものが汚される、あの感覚を自身が味わいたいだけだったのだ。

彼は鏡で自分の姿を見る度に、ため息をつく。

男としては恵まれているであろう背格好。
長い四肢に、均整の取れたスタイル。

それは、あまりにも自分の理想とはかけ離れた、男性的な特徴を有していた。

第二次性徴以前の自分は、あの美しい妹と何もたがわぬはずだったのにと、鏡に写るかつての面影に囚われていた。


そんな折り、新堂から亜美にまつわるビジネスの話を持ちかけられる。

最初は興味本位だった。
しかし、新堂から参考にと手渡された複数の写真や動画に、菅原の目は釘付けになった。

そこには、まさに菅原が理想としていた世界があった。

麗しく、純真無垢だったいたいけな少女が、男達のドス黒い欲望によって真っ黒に塗りつぶされて行く様。
誰か分からぬ子種で孕ませられても尚、運命に抗うことも許されず堕ちて行く様。

そして、そんな薄汚れた世界に晒されてこそ、圧倒的な美しさを放つその少女に、菅原はこれまでに無い興奮を覚えた。

と同時に、狂おしい程の嫉妬を抱いたのだったーー。


実は菅原が亜美を抱いたのは、ここへ来た初日の一度だけだ。
あくまでそれは、自分の本来の目的をカムフラージュするため。

菅原は、亜美を通して、自身の願望を叶えようとしていたのだ。

あの日、自身の片割れであった妹が絶望に伏した時から、ずっと抑えてきたただならぬ欲求。

こうして彼は、夜な夜な亜美を外へ連れ出すという奇行に走ったのである。
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