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セイドレイ【完結】
第44章 鏡
「...そっか。そうだよね。そんな気分じゃないか.....ごめん」

「...え?」

てっきり、これからまた無理難題を突き付けられると思っていた亜美は、素直に謝罪を口にした菅原に拍子抜けする。

すると菅原は、鏡貼りになった壁の前へおもむろに移動し、そこへ映し出された自分の姿を見ているようだった。

「...あーあ。せっかく、亜美にお化粧してもらおうと思ってたんだけどな.....なーんて」

菅原は何やら物憂げな表情で、そうぽつりと呟いた。

「お、お化粧??わ、私が菅原さんに...ですか...?」

「そ。亜美にしてもらえたら、僕も亜美みたいになれるんじゃないかな、って思ってさ。...びっくりした?」

「は、はい.....てっきり...私が菅原さんの好みのメイクをするのだと...その為に化粧ポーチを持ってきたのだと思っていたので.....そもそも、私みたいになれる、って...一体どういう...?」

「...もういいよ。気にしないで。ごめんね。.....ただ、僕もちょっとだけ...ちょっとだけでも綺麗になれるんじゃないかなって、そう思ったんだ。...僕は君になりたかった。君が羨ましくて仕方ないんだ」

「...羨ましい?私が...??」

この世に、こんな自分を羨む人間が居るとは思ってもみなかった亜美は、菅原のその言葉に動揺する。

地下室に閉じ込められ、毎日陵辱され妊娠した挙句、その子供を海外に売り飛ばされるというこんな人生の何を羨むと言うのかーー。



「...はーい、そこまで。お取り込み中失礼するよ?」

その時、地下室の扉が開く音と共に、聞き覚えのある声がする。

「...し、新堂っ...さん?!」

声のする方へ振り返ると、まるで二人の会話をずっと盗み聞きしていたかのように、不敵な笑みを浮かべた新堂がそこに立っている。

「...いやぁ。なかなか面白いことを聞かせてもらったよ。まさか菅原君にそんな趣味があったなんてねぇ.....結構じゃあ無いか」

「なっ...何故会話の内容を...?監視カメラには音声は入っていないはずではっ...?!」

菅原はすかさずそう反論する。

「ははは...そんなに不思議がることかね?実に古典的な手法さ。あいにく私はメカには弱くてねぇ。このくらいしか方法が思い浮かばなかったのだよ。...盗聴器、ってご存知かな?」
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