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セイドレイ【完結】
第44章 鏡
うずくまる亜美の元へ酒井が近寄り、しゃがみ込む。

「...グーパンは初めてだっけか?新堂さんから顔は殴るなって言われてんだけど...しょうがねぇよなぁ?悪いのはお前だもんなぁ?.....次、変な真似しやがったらそのボテ腹にお見舞いしてやるからな。分かったか?」

「いっ.....イヤっ......ゴメン....なさいっ.......ごめんっ...なさいっ....うっ...ううっ.....」

カラダを震わせすすり泣く亜美。
恐怖に萎縮したその姿を満足気に眺めていた酒井だったが、ふと鼻を刺す独特な臭気に気がつく。

「.....ん?.....あ~あ~。ったく、こんくらいのことでいちいち小便ちびってんじゃねぇよ.....ほんっとに、出来の悪ぃ便器だなぁお前は」

恐怖のあまり、亜美は失禁してしまう。
生温い尿が、亜美の周りに円を描いて広がっていく。

酒井は短いため息を漏らすと、頬を押さえたままの亜美の手をどけて、顔を覗き込んだ。

「...いーね。久々だなぁお前のその顔。最近はめっきり落ち着いてやがったからなぁ。どれ、痛かったろ...?」

恐怖に慄く亜美の表情を見た酒井はそう言うと、殴ったせいで赤く腫れ上がった亜美の頬に舌を這わせ、愛撫をした。

「あっ.....ああっ.......ダメっ.....」

頬を舐めずる酒井の舌が患部を刺激し、甘美な痛痒さが亜美を襲う。
亜美は、こんな時でさえ感じてしまう自分のカラダが忌々しかった。
暴力と快感に支配され、抗うことすらままならないこんな母親を、お腹の子はどう思っているのだろうか、と。

「...やっぱお前、可愛い奴だな。もういい加減諦めろ。全部忘れちまえよ...下手なこと考えるから辛ぇんだろ?お前は男無しじゃもう生きられねぇんだよ。自分が一番分かってんだろ...?死ぬまで俺が面倒見てやっから...な?もう自分を否定すんな。全て受け入れりゃ楽になるぜ。その方が気持ちいいだろ...?」

唇と唇を重ねたまま、酒井がそうささやく。

悪魔の手招きのような、あまりにも残酷で甘いささやき。


(私は.....私は.........)


「...大丈夫か?怖かったよな。今日は優しくしてやるから。殴ったりして悪かった。...さ、お前の居場所へ帰るぞ?立てるか...?」
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