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セイドレイ【完結】
第45章 男達の晩夏
そうして、ファミリーレストランを後にした二人は、それぞれ別々の方向へと向かって行く。



「(さて...いよいよだ...)」

貴之が目指すのは、もちろんトメの家だ。
亜美の全てが詰まっている、というものを見せて貰うため。

亜美はどうしてあの時、それを自分に伝えたのだろうかと貴之は考える。

どうしても子供を産みたい。
だから何もしないで欲しい。

あまりに断片的なその言葉だけでは、亜美の本心を推し量ることは難しい。
それでも、亜美は貴之に何か伝えたいことがあったということなのか。
それらの疑問も、この後全て解決するかもしれない。

もしかしたら自分が変われるかもしれないーー。

あすかにそうは言ってみたものの、貴之は自信があるわけではなかった。
知らなければ良かった真実を見ることになるかもしれないのだ。

それでもーー。
もう目を逸らさないと決めたのだ。

本当の亜美と、ちゃんと向き合う覚悟を。


トメの家へ向かう道。
かつて亜美と共に毎日歩いた通学路だ。

それは高校一年生の二学期という、極々短い期間ではあったのだが、貴之にとっては今でも鮮明に焼き付いて離れない思い出だった。

胸が痛い。

焦がれる、とはこういうことを言うのだろう。

貴之はその思い出のひとつひとつを回収するように、通学路の景色の中にかつての亜美と自分の姿を見ていた。

どうなるかは分からない。
ただ、確実に言えることがあるとするならば、今日の自分はもう明日には居ないということだけだ。

良くも悪くも、今日を境に変わってしまう。
その覚悟を持って、貴之はトメの家の前にたどり着いた。

武田家とは違い、綺麗に手入れされたトメの庭が目に入る。
懐かしいようで、つい昨日のことのようにも感じる。

「ふぅ...」

貴之は大きく深呼吸をして、チャイムを鳴らす。

しばらくして、家の中から足音が近づいて来る。



「...はいはい、どちらさんですか~?って...あんた?貴之君じゃあないかっ...どうしたんだい?急に...」

久々に訪れた貴之の姿にトメは目を見開いて驚く。

「トメさん...久しぶり。驚かしちゃってすいません」

「いいよぉ。さぁさぁ上がんなさい。外は暑いからねぇ。せっかく来たんだ冷たい麦茶でも飲んで行きなさいなぁ~」

「...ありがとう。ではお邪魔します」
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