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セイドレイ【完結】
第45章 男達の晩夏
貴之はトメの家に上がると、出された麦茶を一気に飲み干した。

「...おやおや、そんなに喉が乾いてたのかい?しかし今日はまた突然どうして...あれは冬頃じゃったかの?確かこの前来た時は、亜美ちゃんが居なくなったって言って...結局あれからどうなったんだい?私も心配じゃったが足腰が悪くて何もしてやれんくての...」

「...すいません。何も報告しなくて。亜美はあの後見つかりました。今も...元気そうにしてます。多分。...今日はそのことで...亜美のことで、もう一度お願いに来ました」

「...亜美ちゃんのことで?お願い...?」

不思議そうな顔をするトメに向かって、貴之は唐突にとある言葉を投げかける。


「もろともに苔の下には朽ちずして」


トメはそれを聞いた瞬間、目を丸くして、こう続けた。


「...ひとり憂き身をみるぞ...悲しき」


二人はそのまましばしの沈黙を挟む。

先に沈黙を破ったのは、トメだった。

「...そうかい。亜美ちゃんと私の秘密の暗号を知ってるってことは、あんた、亜美ちゃんに頼まれて来たんだね...?ちょいと待っとくれ。今持ってくるから...」

そう言ってトメは、ゆっくりと奥の部屋へと消えていく。

待つこと3分ほどだろうか。
戻って来たトメの手には、亜美のスマホがあった。


「...あんたに嘘をついたことは謝る。許しておくれ。じゃが、亜美ちゃんとの約束だったんじゃ...」

「い、いえ...トメさんは何も悪くありません。むしろ亜美は...感謝していると思います」

「...この電話をうちに預け出してしばらく経った頃、亜美ちゃんがこう言ったんじゃ。『トメさん、もしかしたら私はそのうちトメさんに会えなくなるかもしれない』って...。私も詳しくは聞かんかった。じゃが、それはそれは哀しそうな顔をしとってな...」

「亜美が...そんな事を...」

「...あぁ。でな?もし、しばらく来ない日が続いたら、電話は家の中に隠しておいてくれと言われたんじゃ。ずっとトメさんに持ってて欲しい、って。もし、他の誰かがこれを取りに来たら、絶対に渡すな、と念を押されてな?それがたとえ貴之君、あんただったとしても渡しちゃあいけないと。だからあの時、心苦しかったがあんたにも嘘をついてしまったんじゃよ...」
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