この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
セイドレイ【完結】
第45章 男達の晩夏
トメに嘘を吐かせてでも亜美が守りたかったもの。
それがこのスマホの中に眠っている。

「...さっきの和歌はなぁ、和泉式部が詠んだ歌なんじゃよ」

百人一首の56番でも有名な和泉式部。

『もろともに苔の下には朽ちずして
ひとり憂き身をみるぞ悲しき』

我が子と共に死んでしまえたら良かった。
自分だけがこの世に残ってしまい、一人悲しい思いをして生きているーー。

愛娘に先立たれた哀しみを詠んだその歌に、トメは孤独な晩年を過ごす自身を重ねていた。


「...亜美ちゃんがな、もし万が一誰かにこの電話を渡して欲しい時のために、暗号を決めときましょう、って言ってな。じゃあ、トメさんの好きな歌にしよう、って...。この上の句を言った人だけには渡してください、って言われとったんじゃよ。さすがに亜美ちゃんが居なくなったと聞いた時は、あんたには渡すべきだったんじゃないかと後悔しとったんじゃが...」

「い、いえ...実は俺、この前ここに来た時には、それを知ってたはずなんです。亜美から、『もしトメさんに会うことがあったら、この上の句を伝えてあげて。トメさんが好きな歌だから』って...でも俺、あの時...自分のことばかり考えてて...亜美が伝えようとしてたことに...気づいてやれなかった」


『水野くん、記憶力はいい方...?』


何故あの時、あんな状況下で、亜美がそんなことを言ったのか貴之には分からなかった。

恐らく、今後もトメのことを気遣ってやって欲しい、くらいの意味と捉えていたのだ。
前回、ここへスマホを取りに来た時は、行方が分からなくなった亜美を探すことに精一杯だったせいで、すっかりそのことを忘れていた。

しかし、それならば何故亜美はあの時はっきりと、これが暗号であると言わなかったのだろう。

もしかしたらあの時点ではまだ、スマホが貴之の手に渡ることに迷いがあったのかもしれない。

すなわち、今はもう迷いは無いということなのだろうかーー。

「...もうこれで、私の役目も終わりかねぇ。またいつでも会いに来てくれと、亜美ちゃんに会ったら伝えておくれ...はい」

トメはそう言って、亜美のスマホを貴之に手渡す。

「(ここに...亜美の全てが詰まってる...)」

その手の平サイズのスマホは、実際の重さ以上にずっしりと感じたのだった。
/903ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ