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セイドレイ【完結】
第8章 終わりの始まり
「…よし。これで後は1分待つだけだ」
雅彦は検査薬を洗面所の水平な場所に置いた。
1分──。
人生でこれほど長いと感じる1分があっただろうか。
亜美のカラダガクガクと震え出し、呼吸が乱れていく。
さすがに健一や慎二も、この時ばかりはひと言も発さず、ただ判定結果を待つばかりだった。
20秒。
30秒──。
静かに時間が過ぎていく。
「ハァッ、ハアッ、ハッ、ハッ…──」
亜美は次第に肩で息をするようになる。
40秒。
50秒。
55秒。
そして1分が経っただろうか。
「…そろそろか」
検査薬を雅彦が確認する。
目を細め、何かに納得したように。
次に、恐る恐る健一と慎二もそれを覗き込む。
「…亜美」
「……ワタシジャナイワタシジャナイ」
「どうした…?」
「ワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイ…」
耳を塞ぎ、うわ言のように同じ言葉を繰り返す亜美の元に、雅彦が妊娠検査薬を見せる。
そこには1本、はっきりと赤い線が縦に通っていた──。
「ワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイワタシジャナイ!!!!」
そう絶叫した亜美は全裸のまま、3人を突き倒し風呂場から走り去っていく。
「お、おいっ!亜美っ!どこへ行くんだ!?…お前ら、捕まえろっ!!」
今まで見たことのない亜美の発狂した姿。
その迫力に一瞬たじろぐも、3人は亜美を追いかける。
(これは私じゃないのっ…!こんな女は知らないのっ!!)
亜美は全裸のまま玄関を飛び出し、屋敷の門を出た。
ちょうどそのとき、家の前の車道を少し遠くから車が亜美のいる方へ走ってくる。
亜美はそれをじっと眺め、こう思った。
(これで…やっとパパとママのところへ行ける…──)
亜美がその車に身を投げようとした、その時────。
「亜美っっ!!」