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セイドレイ【完結】
第50章 セイドレイ
先の母親との電話の内容。

楓はつい先日、唯一レギュラーとしてコメンテーターを務めていた情報番組を何の予告もなく降板させられていた。

しかしその理由は明確に分かっている。
番組の中で、この『セイドレイ事件』に関する各メディアの報道姿勢を批判したからであった。

テレビ業界も、言わば『男の世界』だ。
あくまで本職の宣伝になるならとメディアの仕事を始めた頃、お偉方から『枕営業』を持ちかけられたことなど数知れず。
それ以外にも、日常的にセクハラ、パワハラが横行しているような世界だった。

どうも男は権力を持つと、それを振りかざしたくなる生き物のようだ。
簡単に言いなりになる女では飽き足らず、男からすると楓のような「鼻持ちならない女」を如何に屈服させ支配下に置くかということが自尊心を満たすのだ。

元々、歯に衣着せぬ物言いでコメントをする楓は、女性からの支持は圧倒的に多かったものの、男性視聴者からは『いけ好かない女』として度々番組にもクレームが届いていた。

そのどれもは『女の癖に生意気』、『行き遅れババア』、『顔は美人だが性格がブス』等、相手にするのも馬鹿らしくなる程の単なる言いがかりばかり。

楓は決して、男性そのものを否定したつもりは一度たりとも無いのだが、自身がそのような批判をされる理由も分からなくはない。

「...ついつい、昔から余計なこと言っちゃうのよねぇ...しっかし...」

それ以外にも、楓にとってこの事件は身近なところに影響していた。
それは、同じ番組で同じ曜日にコメンテーターとして肩を並べていた、個人投資家の前林歩の存在だ。

まさか、これまで毎週隣の席に座っていた男が事件の容疑者だったとは。
前林とは同時期にコメンテーターに抜擢されたこともあり、度々飲みに行く程度の付き合いはあった。

普段から男を警戒している楓からしても、前林は気さくで人当たりもよく、視聴者からの批判や失言により落ち込む楓のことをよく励ましてくれていたものだ。

そんな男が、地下室で少女に淫行の限りを尽くしていたとは、未だに信じられない部分があると同時に、恐怖を抱いた。

斯くして、ひとつの事件によって2人の欠員を出したその番組の後任が、まだ19歳の可愛らしいアイドルだったということにも、楓はため息を漏らさずにはいられなかった。
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