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セイドレイ【完結】
第50章 セイドレイ
楓は日課であるネットニュースを流し読みする。

『月島楓(32)またもや失言!?番組降板の真実とその裏事情』

そんな見出しがトップニュースの下の方に表示されている。

「...真実と裏事情って...そんなもんがあるなら私が知りたいわよ、全く...」


現在、雑誌での連載をいくつか抱えているものの、それもじきに終了する。
早く次の執筆に取り掛からなければならないとは思いつつ、楓が取り扱うテーマはそう軽率に書き上げて良いものでは無い。

事実、楓が過去に取材した女達は、その後も楓とやり取りをしている者がほとんどだった。
皆、深い傷を抱えながらも、懸命に生きている現状を報告してきたり、悩みを相談する者も居た。
一時は自殺まで考えていた女性が、最愛の伴侶に出会い結婚したとの報告を受けた時、楓はそれがどんなことよりも嬉しかった。

一方で、突然連絡が途絶えてしまう者や、精神状態が悪化してしまう者も同じくらい居た。
楓はそのひとり一人に、仕事の合間を縫ってできるだけ返信をしたり、直接会って相談に乗ることを、もうずっと続けている。
思い出したくない記憶を、それでも楓の為に打ち明けてくれた女達への、せめてもの礼儀である。
そんなある種の使命感に突き動かされて来たものの、自分ができることの可能性以上に、限界を感じる事の方が多かった。

「...高崎亜美ちゃん...か」

楓はその名を口にしてみる。
ネット上でその名前に辿り着くのは簡単な事だった。
気は進まなかったがいくつか動画も見て、その少女の姿も知っている。

実は、かれこれ2週間程前。
楓はダメ元で、被害者少女の弁護人を通じて取材の申し込みをしていた。

同じ業界内ではこの事件を書きたがっている作家は多く、先日ついに別の作家がいち早く事件に関して初となる書籍を出版した。
参考のために楓もそれを一読してみたのだが、書かれている内容はネットで囁かれている噂をまとめたものが大半を占め、後は被害者少女の同級生や近隣住民への取材が気持ちばかり載っている程度。
仕舞いには、少女が如何に男を惑わすものであったか等の憶測でまとめられ、間に合わせで書かれたのが丸分かりであった。
ちなみに書いたのは男の作家だ。

しかし、到底価値があるとは思えないこんな書籍が、書店ランキングで上位に食い込んだのである。やはりこの事件に関心を持つ者は多いのだ。
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